堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

まずは こころが動く絵本の魅力 1『三びきのやぎのがらがらどん』の魅力と保育<前編>からお楽しみください。

前編はこちら>>

こころが動く絵本の魅力 2

『三びきのやぎのがらがらどん』の魅力と保育<後編>


4.お話の骨格


「三びきのやぎのがらがらどん」のおもしろさの真ん中には、何があるのでしょうか。

これは、「遊び」のもっとも単純なかたちとかかわりがあります。

「遊びの現象学」を書いた西村清和の論によると、それは、「いないいないばぁ」です。お母さんの顔がいつ出てくるのか分からないわくわく感から期待の緊張が吊り上げられ、それが、「ばぁ」と共に解放される、この緊張と解放の共有が「遊び」の原型です。

 三びきのやぎのがらがらどんのお話は、まさしくこのやりとりが繰り返されるお話です。やぎの大きさに比例して刺激も大きくなり、最後は大きいやぎの勝利にて、お話は収束します。

このような遊びの骨格がシンプルに見えるお話は、実はたくさんあります。『三びきのこぶた』もそうですし、『さんまいのおふだ』もそうです。『おおきなかぶ』や『おだんごぱん』のお話もそうでしょう。

先生と子どもたちは、絵本を通じて、このどきどきとわくわくを共有し、お話の世界を生きるのです。

5.劇と『三びきのやぎのがらがらどん』


そういうわけで、『三びきのやぎのがらがらどん』は、子どもたちにとって、分かりやすく楽しみながら取り組めるお話として、年少さんの劇、採用頻度№1の地位を不動にしているでしょう。

特に、橋があればなんとかなるという、舞台構成上の問題も関係しているかもしれません。

その昔、働いてた幼稚園で劇をしたとき、トロル役をしている私に、「まみこさん、こわすぎます。」と副園長先生がおっしゃいました。確かに、子どもは私が「誰だー!!」と登場するたびに、ビク~ッと目をまんまるにして止まっていましたが、それくらいが飽きなくてよかったのではないかと、未だに思っています。

昨年、私の園でもこの劇に取り組んだクラスがありました。橋を渡るのは、やきいも屋さんと、お姫様とヒーローです。日頃楽しんでいる遊びを劇に取り入れていくと、こうなります。子どもが意欲的に活動に向かうことをねらいにすると、よく知らない「やぎ」になるよりも、楽しくそれぞれの得意を生かすことができ、それ故に工夫のしがいがあるので、合理的でしょう。ちなみに、このやきいもは、日ごろごっこ遊びを楽しむ中で、自分たちで色を工夫し、和紙を塗ってつくりました。

最近は、先生と一緒に悪役になる子もいて、この年は、2人の子がトロル役になりました。劇づくりを進めていく中で、トロル役のSくんが、

「誰か食べたい」

と言い出したそうです。確かに、橋を渡ってくる者たちを食べられない上にやっつけられる役ですから、当然その思いには、応える必要があります。

「それは、是非、そうせないかん。誰か先生、食べたらいいわ。Sくんに聞いてみて。」と伝えたところ、「もちろん、園長先生。」と答えたそうです。そういうわけで、私は、劇中に食べられることになりました。

保育における絵本の存在はとても大きく、果たしてくれる役割は様々です。

毎日、子どもと心を一つにする時間をくれ、あるときは、子どもへのメッセージとして働いてくれ、遊びや活動の情報源にもなってくれます。そして、毎年の学びの集大成として位置づく劇づくりにも、大きな力を発揮してくれます。

この連載を通じて、そんな絵本のすばらしさを再発見できたらと思います。

次回はその手始めに、発達的視点から子どもと絵本について、考えてみたいと思います

写真のひろば(撮影:篠木眞)



涙の先の笑顔を見たくて、今日も明日も一歩ずつ

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018