堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

こころが動く絵本の魅力4

絵本と発達 -3歳後半からの子どもたちと絵本-


1.絵を読み取り、言葉を聞く


前回は、小さな子どもたちと絵本について考えました。

今回は、それ以降の言葉が豊かになって来る子どもたちと絵本について考えてみたいと思います。

絵本は、絵と言葉によって出来事が紡がれていくものですから、絵を読み取る力と言葉を聞く力が、親しむことや楽しむことの鍵を握っています。

まずは、絵を読み取ることについて考えてみたいと思います。

例えば、2才児向き月刊絵本「えほんのいりぐち」2022年4月号『こんにちは』。相変わらず、やわらかく、かわいく、無添加の肌触りのこの「くまくんシリーズ」。

ここで目に留まるのは、くまくんが、ヤギの牛乳屋さんにごあいさつしている様子です。

言葉は、この絵にシンプルに対応しています。ほとんどの子どもが、この絵を見ながら、「ぎゅうにゅうやさん、こんにちは。」だと思うでしょう。

ところが、たまにこの絵の牛乳瓶の数が気になる子どもがいます。

その子は、くまくんと牛乳屋さんの様子に着目しません。そうすると、言葉も耳に入りません。

牛乳瓶の数が気になる子どもは、それに対するこだわりと確実性を持っています。

これは、良さであり、強みにもなりますが、人と分かりあうことに対しては、周りも本人も難しさを感じることが多くなります。

そこには、「合理的配慮」と言われるものが必要となりますが、この話については、また別の機会に譲りたいと思います。

絵本は、このようにして、絵の読み取りとそれを表す言葉が乗せられていくことによって、進んで行きます。

そして、ページをめくることで物語が続いていく、ということに頭も心もついていけるようになると、絵本の幅はぐっと広がってきます。物語をたくさん楽しめるようになるのです。

とはいえ、まずは、物語が単純な繰り返しであることが入口としては大切で、その代表格が『三びきのやぎのがらがらどん』ということになります。その他、『三びきのこぶた』『おおきなかぶ』、『てぶくろ』(ロシア民話は、いつも繰り返し)、『さんまいのおふだ』など、どれも定番の名作です。

こうして、子どもたちは、言葉の発達と共に、より豊かなお話の世界を楽しむことができるようになるのですが、だいたい4歳児あたりで見る力と聞く力に差が出てくるようです。

例えば、「ばばばあちゃんシリーズ」の12年ぶりの新刊『いたずらからす』(月刊絵本「こどものとも」2022年4月号)の絵を見て見ましょう。さきほどとは違い、ぐっと絵に多様性が出てきて、聞く量も多くなります。

そうすると、耳で聞くように絵を見て、さらにそれ以上のことを、聞く言葉からイメージする力が必要になってきます。

ここで、耳で聞くことが苦手な子や目についたところに気を取られ、物事の起承転結や文脈を読み取ることが苦手な子に、苦手意識が芽生えてきます。

2.絵本の世界へいざなう個別配慮


園での読み語りは、たいてい、いつもクラス全員に向けて行われます。

そうすると、時々、ゴソゴソとしている子どもに出会います。「退屈」「わからん」というサインです。それが極まってきたKくんのお話をしたいと思います。

年長の2学期になると、はっきりと拒否を示すようになりました。退屈を通り越して、苦痛になってしまったようです。

そんな彼と「ぐりとぐらとすみれちゃん」を1対1で読んでみました。

まず、絵を読み取ってみることからと「これ、なんやと思う?」と聞いてみます。

即座に「わからん」とKくん。

「絵本、無理」とでもいうような即答を受け流し、その気持ちをほぐしながら、絵を通してお話を進めていきました。時々、文章を乗せて。

ページをめくるたびに、彼の読み取りや推理が豊かになって行くのが分かりました。

一度、親しんだ本ならと、それをクラスの読み語りで読んでもらいました。

すると、周りにはお構いなしで、先々の展開を全て嬉しそうに話し続けるという姿に。

つまり、先生の「語り」には、注意が向かないのです。

どうも、「聞く」ことが苦手なようです。(その代わり、目をみはるような得意も持っているのですが・・・。)

そこで、後日、また彼を呼んで一文、一文、声に出して一緒に読んでみました。

そこで、彼は、文章の存在に気づいたようです。前回と同じく、慣れてくるとどんどん語り方がスムーズになって行きました。

彼の場合は、まず、「できない!」「難しい!」と直観的に思い込んでしまうことを、丁寧に解きほぐすことが必要なようです。

次の日も、同じ本を選びました。今度は、お話の展開に気づいてほしかったからです。

この頃には、私が彼を呼ぶと、イソイソと来るようになりました。「ぼく、絵本無理」という世界が変わる気がしたのかもしれません。

その日、ぐりとぐらは半分にして、新しい本も読んでみました。月刊絵本「こどものとも」2022年1月号『せっけんとけしごむ』です。

推理していくような展開がおもしろくて、私の語りを聞きながら、「分かろう」としている様子が見えました。

次の日、「君にぴったりな新しい本を選んでるよ」と言いながら、ぐりとぐらの続きを読んで、それから、『せっけんとけしごむ』をもう一度読みました。

すると彼から、「新しい本ってどれ?」と聞いてきました。それは、月刊絵本「こどものともセレクション」2022年4月号『ちょっとだけ』という本です。

赤ちゃんのお世話で大変なお母さんのために、「ちょっとだけ」とたくさん頑張る女の子「なっちゃん」のお話で、今の彼に、とてもフィットする内容です。かなり文章もあるので、「つらくなったら、いつでも言って。」と読んでいきました。

彼は、じっと絵を見て、最後まで私の語りを聞いていました。このとき、彼は、絵本の世界を生きたのではないかと思います。

「なっちゃん」の気持ちを感じながら。

次の日は、『てぶくろ』を読み、まだ読みたいというので、『おおかみと七ひきのこやぎ』を(時間切れにて)途中まで読んだのですが、すっかりお話の続きを楽しみにしている様子でした。

これまで、聞き逃すことが多かったせいか、知らない言葉や分からない言葉が多く、聞き続けることも難しいのですが、自分で文を言ってみるとさっと頭に入ることも分かりました。

少し時間はかかりそうですが、きっと彼は、絵本を楽しめるようになるでしょう。

何かが引っかかって、絵本が苦手になる子はいるかもしれません。

しかし、絵本の世界が苦手な子は、きっといない、そんな気持ちを新たにしました。

3.園生活にフィットする絵本シリーズ


読み語りの時間が苦手な子は、往々にして、ごっこ遊びの仲間に入ることが苦手だったりします。前述のKくんにも、この傾向があります。

ごっこ遊びは、当人同士のさしあたりの約束事で進んで行く遊びです。

誰が、何の役をやっていて、どんな約束事のもとで、どんなことを楽しんでいるのか、その筋が読み取れないと、遊びに入ることが難しいのです。

自分が中心になって遊ぶことはできても、後から仲間に入るのが苦手だったり、「やー!とぉー!走る」といった単純な戦いごっこばかりする傾向があります。

そんな子どもたちには、園生活を彷彿とさせる先程のシリーズを読んでみるのがいいでしょう。

12年ぶりでも、ばばばあちゃんは、やっぱりヒーローで「変わってない」と嬉しくなりましたが、「ばばばあちゃんシリーズ」や、「そらまめくんシリーズ」、「くれよんのくろくんシリーズ」は、園の生活に通じるところがあります。「ぐりとぐらシリーズ」もそうかもしれません。

どの絵本も、日常のある出来事が題材で、登場人物が多く、その表情が豊かです。

たくさんのお友だちと過ごすなかで、ちょっとした事件が起こる園生活がとてもフィットしていて、その身近さと等身大の雰囲気が人気の秘密なのでしょう。

実際、個別に保護者の方にお願いしたり、園で取り組んでいくと、友だちのまわりをウロウロする姿や、刹那的な動きが減る傾向が見られます。

ただ、このようなシリーズまで行けないケース、もっとシンプルな絵本の楽しさに戻る必要がある場合も少なくありません。

ページをめくることが、わくわくの緊張と解放になるような絵本だったり、絵をみておしゃべりすることを楽しんだりすることです。

その個別的な配慮があってこそ、絵本と出会える子どもたちがいることを心に留めたいと思います。

4.子ども理解と絵本


絵の意味が分かり、耳で聞く言葉が分かり、その先を楽しみにできる心と頭があれば、ここで紹介する必要もなく、子どもたちは様々な物語を楽しめるようになります。

それは、子どもたちにとって幸せな体験でしょう。

耳で聞く量が多くなればなるほど、イメージする力が必要とされます。その程度は、クラスによって、年によって違います。絵本を選ぶときには、その時期の子どもの聞く力に応じた選び方をしなければならないでしょう。

また、Kくんのように個別対応することによって、絵本の世界が開かれていく子も少なからずいます。

その配慮は、保護者へのアプローチも含めて、保育者に任されています。

ご家庭では、つまづきの中身を見極めることが難しく、どう対応していいかもわからないでしょう。

子どもたちに、絵本という世界を開く私たち保育者に求められているのは、適切な子ども理解だと言えそうです。

次回は、物語絵本と科学絵本をどんなふうに保育に取り入れていくか、考えてみたいと思います。

写真のひろば(撮影:篠木眞)


「たのしい」

「きもちいい」

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018