まだまだしばらく暑い日がつづきそうですね。外出するときも危険な暑さに注意が必要です。

でも、月をまたげば朝晩少しずつ涼しくなってくるはず。涼しい夜に空を見上げれば月や星も歓迎してくれることでしょう。今年の「中秋の名月」は9月29日。美しい満月をみんなで味わいたいですね。

今日は、やさしいお月さまの助けを借りて悪者を追い払いながら、秋祭りのおいしい料理の準備をする、「きつねのきっこ」の楽しいお話をご紹介します。


『やまこえ のこえ かわこえて』

こいでやすこ

秋の日の夜遅く、きつねの「きっこ」は、山こえ野こえ川こえて、町まで買い物に出かけます。

真夜中の買い物なので、きっこは不安でいっぱい。すると途中で出会ったお月さまと、ふくろうと、いたちが、きっこの買い物について来てくれました。きっこの向かった先は、町のお豆腐屋さん。きっこは山の幸と交換で、油揚げを100枚買います。

帰り道、突然闇の中から恐ろしい姿の何者かがあらわれて、「こわいぞ〜こわいぞ〜 油揚げ100枚おいていけ!」ときっこたちをおどします。お月さまがピカッと光りを投げつけたので、怪しいだれかは逃げていきました。

その後、草むらでも、林の影でも、怪しいだれかはなんとかしてきっこの油揚げを奪おうとしますが、ふくろうやいたちの活躍で撃退します。そして、きっこは無事に油揚げを持って家にかえることができました。

さあ、これからが大仕事。きっこたちはご飯を炊いて、油揚げを甘く煮て、たくさんのいなりずしをつくります。「夜が明ける前に大急ぎ!」 そう、日が昇れば稲荷山の秋祭り。きっこのいなりずしは、お祭りの名物だったのでした。

ところで、途中で油揚げを奪おうとしただれかさんの正体は? ……それは、読んでのお楽しみ!

豊かな自然の中で、ゆかいな仲間とともに四季折々の生活を楽しむ「きつねのきっこのお話」です。リズミカルな言葉、巧みな展開、そして、自然描写の美しい温かな絵で、ぐんぐんお話の世界に引き込まれますよ。

作者のこいでやすこさんは、少女時代を福島で過ごし、その時の自然の風景や人との出会いがお話を作るときの源泉になっているのだとか。こいでさんの絵から、やわらかな温かみとともに嘘のないリアリティーを感じられるのは、自身の見たもの体験したものがお話の土壌としてしっかりと根づいているからなのでしょう。

また、細部にさりげなく伏線を張るのも、こいでさんの絵本のお楽しみ。『やまこえ のこえ かわこえて』でも、絵をよく見ていくと、油揚げをつけ狙うだれかの姿が、表紙からずっと小さく描かれています。子どもは目ざとく見つけて快哉を叫ぶことでしょう。

「きつねのきっこのお話」には、ほかに、『おなべ おなべ にえたかな?』『おおさむ こさむ』『たろうめいじんの たからもの』『おべんともって おはなみに』があります。残念ながら、こいでさんは2010年に他界されたので新作の登場はかないませんが、四季折々のきっこたちの活躍を描いた作品は、これからも子どもたちに、自然の中の豊かな生活の楽しさと、ストーリー絵本の醍醐味を届け続けることでしょう。ぜひ、ご家族でお楽しみください。


作者情報

こいでやすこ


福島県に生まれる。桑沢デザイン研究所卒業。絵本に『とんとんとめてくださいな』(1986年オランダの絵本賞、銀の石筆賞受賞)『ゆきのひのゆうびんやさん』『はるです はるのおおそうじ』『とてもとてもあついひ』『もりのひなまつり』(以上福音館書店刊)、『なぞなぞかけた』(小峰書店刊)、『かくれんぼおに』『はなづくりのまろ』『どろんこーん』(以上ぎょうせい刊)などがある。

書誌情報


おとなが読んであげるなら:3才ぐらいから
じぶんで読むなら:小学校初級から
定価:1,100円(税込)
ページ数:28ページ
サイズ:27×20cm
初版年月日:1992年9月1日
シリーズ:こどものとも絵本