2022年2月1日、福音館書店は、おかげさまで創立70周年を迎えました。
70周年を記念し、読者のみなさんに福音館の本により親しんでいただけるよう、「編集長が語る、福音館の本づくり。」と題して、各編集長のエッセイをお届けしていきたいと思います。
第2回は、年中児向けの「こどものとも年中向き」と年長児向けの「こどものとも」を刊行している「こどものとも第一編集部」です。
「もういっかい!」と何度も楽しんで 一生の幸せな記憶となるように
こどものとも第一編集部編集長
関根里江
ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
このよで いちばん すきなのは
おりょうりすること たべること
ぐり ぐら ぐり ぐら
このフレーズを口ずさむと、私はたちまち5歳の自分に戻ってしまいます。
そして何とも言えない幸せな気分になります。
もう50歳をとうに過ぎたというのに!
大人になった今でも自分の体の中に、幼い自分が息づいているのを感じ、驚きます。絵本の記憶って不思議ですよね。
何度も楽しんだ絵本の記憶は、「おもしろかった!」というわくわくした気持ちや読んでもらったときの幸せな空気といっしょに、体の深いところにしまわれます。
そして、成長していくなかで、たとえ忘れてしまったとしても、またその本に触れたりすると、タイムカプセルを開けたように一気によみがえってきて、その幸せを再び味わうことができるのです。
幼いときの記憶がずっと自分を励まし続けてくれている、そんなふうにも思えます。
空想と現実を自由に行き来できる幼児期は、すっぽり絵本の世界に入り込める貴重な時期。
だからこそ、そこで思い切り楽しんだことが自分の体の一部になるのでしょう。
読んでもらいさえすれば、想像の翼を広げてどんな世界へも飛んでいけます。
不思議な友だちと遊んだり、ひとりでおつかいに行ったり、山姥においかけられて助けてもらったり。
気にいったら、「もういっかい!」と何度も読んでほしがります。
それが子どもの読み方です。
「こどものとも」は、そんなふうに何度も楽しんでもらえるような絵本作りを目指しています。
作り手の方々を全力でサポートしつつ、納得がいくまで話し合って丁寧に作り上げていきます。
その道のりは試行錯誤の連続。企画から仕上がりまで、2、3年かかってしまうのが普通です。
でも何度も楽しんでいただくためには、必要なことだと思っています。
現在、こどものとも第一編集部のメンバーは5人。年中児向けの「こどものとも年中向き」と年長児向けの「こどものとも」を担当していますが、素敵なものにアンテナを張りつつ、真剣に、そして遊び心たっぷりに絵本作りに取り組んでいます。
物語が大好きな人、ラップが大好きな人、乗り物と釣りが大好きな人、回文作りが大好きな人、好奇心旺盛でなんでもやりたがる人など個性派ぞろい。
どうやったら子どもたちを大喜びさせられるか、びっくりさせられるか、じっくり聞いてくれるか、いつも頭を悩ませ粘り強く話し合いをしています。
メンバーはみんな子育て中のお父さん、お母さんでもあるので、時々家での読み聞かせ談義で盛り上がったりします。できた絵本は毎月近くの保育園で読んでいただき、どきどきしながら、子どもたちの様子を拝見したりもしています。
子どもたちに届けるものだからこそ、本物を、心から楽しめるものを、極上のユーモアを。2022年度もバラエティーに富んだ作品をたくさんご用意していますので、どうぞ楽しみにしていてください。
▼私のお薦め・好きな1冊。
『こんとあき』 林明子 作
林明子さんの優しいタッチの絵本で、あきという女の子が、大好きなぬいぐるみのこんの腕のほころびを直してもらいに、遠くのおばあちゃんの家に行くというお話です。
これは、娘が幼いころ一緒に楽しんだ絵本なのですが、大きくなった高校生の娘を救ってくれた絵本でもあります。
1年間のカナダ留学中、日本から送る荷物の中に、さりげなくこの絵本も入れておいたのですが、帰国後しばらくたったある日、娘が言い出しました。「あれね、よかったよ」と。
絵本を開いて読んでいるうちに涙が止まらなくなってしまったこと、なんてあたたかい世界なんだろう、日本語ってなんて優しいんだろうと思ったことなど次々話し出しました。
そして、枕元に『こんとあき』を置いて、一週間毎日絵本を開いて、読んだと教えてくれました。
大きくなったとは言え、親元を離れて全く違う環境で過ごすというのは、どんなに大変なことだったか、娘の話で想像でき、小さいころ当たり前のように読んでいた絵本がこんなに大きくなった娘も励ましてくれたのかと、ありがたく思いました。
そんな思い出の絵本です。