絵本セット「ちいさなかがくのとも10 Ⅳ」発売記念


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

「絵本作りの現場から」では、みなさんのお手元に届いている絵本がどのようにして作られているのかを、作者や編集者の声でご紹介します。絵本完成に至るまでのさまざまなエピソードをどうぞご覧ください。

こどものともひろば 運営係


こんにちは。

福音館書店「ちいさなかがくのとも」編集部のHです。

「ちいさなかがくのとも10Ⅳ」セットに入っている絵本『こすって こすって』の編集を担当しました。著者の福知伸夫さんと子どもたちとの見事なセッションにより生まれた、『こすって こすって』。制作時のエピソードをいくつか、この場をお借りしてこっそり教えちゃいます。

と、その前に少し、月刊誌「ちいさなかがくのとも」のご紹介です。

「ちいさなかがくのとも」は毎月一冊、ひとつのテーマを取り上げて、絵本を刊行しています。対象年齢は3~5歳の子どもたちです。そんな幼い子どもたちに届ける「かがくのえほん」とはどんなものがよいのだろう? と一生懸命考えながら、試行錯誤の毎日を送っています。

「ちいさなかがくのとも」が大切にしている方針の一つとして、「絵本を読んでもらった後に子どもたちが『これ、やってみたい!』と思ったら、すぐにできる」ということがあります。

今回ご紹介する『こすって こすって』は、まさしくそんな絵本です。

この絵本のテーマは、こすりだし遊び(美術用語では「フロッタージュ」と呼ばれています)。紙の下にデコボコした物(葉っぱやコースターなど)を入れて、紙の上からクレヨンや色鉛筆でこすると、模様や形が浮き出てくるという遊びです。一度はやったことがある方も多いかもしれません。

この絵本をつくるにあたって、「やっぱり実際の子どもたちの反応をみなくっちゃ!」ということで、著者の福知伸夫さんと一緒に、とある園に赴き、取材を兼ねたワークショップを行なうことにしました。

当日、園のホールに集まった子どもたちにこすり出し遊びの説明したのち、福知さんが「この園をぜーんぶ、こすりだしてみよう!」と声を掛けてスタートしました。

すると子どもたちは、一斉に紙を床に置いてこすり始めました。たぶん子どもたちは、今までにも、床で絵などを描いていて、へこみとか木目とかが紙の上にあらわれることを知っていたのでしょうね。みんな一心不乱に床をこすっています。

それを眺めていた私も「せっかくだから何かやってみようかな」と思い、ちょうど本棚の上にあったレースの敷物をなにげなくこすってみました。そうしたら、一人の子どもがすぐに隣にきて、私の真似をしてレースの敷物をこすり始めました。そこで、「きれいに出るねえ」なんて話していたら、他の子どもたちもどんどん集まってきて、みんなでレースの敷物をこすることになりました。

すると、子どもたちは「床に限らず、デコボコしたものの上に紙をおいて、クレヨンでこすると模様が出てくるんだ!」ということが、実感としてわかったのでしょう。“子どもたちは遊びを見つける天才”なんて言葉を耳にしたことがありますが、まさしくそうなんだなあ、と感じました。

もうそこからは、子どもたちの独壇場で、室内外を問わず、色々なところをこすり始めました。

靴の裏がデコボコだ、と気がついた子は、友達一人を寝かせて、もう一人には紙を抑えてて! と指示を出してこすり始めました。

※この光景を見た福知さんは、絵本の中に靴の裏をこする場面を採用してくれました。

またある子は、『おじさん、ちょっと顔貸してよ』といって、僕の顔に紙を押しつけて、ごしごしこすり、『ああやっぱり出ないか』なんて言っていました。※これは、絵本の中には採用されませんでした……。

みんなすこしずつ慣れてくると、大作に挑戦し始めます。

ブランコの座面をこする子。

マンホールを全部写し取ろうとする子。

長い紙にいろいろなデコボコを写した子。

一心不乱に園内のいろいろなものをこすりだそうとしている子どもたちをみて、子どもたちがいちど興味を持った時のエネルギーの強さをひしひしと感じました。

福知さんもまた、そのエネルギーを創作意欲に変換してくれました。絵本のなかの「室内から屋外へ飛び出していく」という絵本の展開や、登場するさまざまなデコボコしたものたちは、取材を通して選び取られたものなのです。

私自身、『こすって こすって』の制作に携われたことによって、ひとつ、絵本づくりで大切なことを学んだような気がしました。

私たち、絵本をつくる側の人間が、幼い子どもたち対して出来るのは、「自然現象の仕組みを教える」とか、「生き物の名前を教える」とかではなくて、「世界にはこんなに面白いもの、ふしぎなものがあるよ」という“きっかけ”を届けることなのではないかと。

「これはこうなっているんだよ」と、答えを全て提示してしまうのではなく、子どもたちが「じゃあ、あれはどうかな、これはどうかな」と考えて、ふしぎの世界に飛び込んでいくときの、その“きっかけ”。

「ちいさなかがくのとも10Ⅳ」にはそんな“きっかけ”となる絵本が勢ぞろいしています。

「山の形が変わっちゃう?」……『のこぎりやまの ふしぎ』

「葉っぱを空に透かして見ると?」……『はっぱ きらきら』

「あの生きもののお腹はどうなってるの?」……『おなかを みせて』 

バラエティに富んだ10冊を子どもたちとともに味わい、その後は子どもたちの『これ、やってみたい!』という声にこたえて、さまざまな実践を園の中でお楽しみいただけますことを願っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

作者情報


福知伸夫(ふくちのぶお)


1968年、東京都生まれ。武蔵野美術学園版画科を卒業。絵本に『とってください』『こちょこちょ』『ぱかぱか』(いずれも福音館書店)、『まって まって』『わっしょい わっしょい』(ともに「こどものとも0.1.2.」)、『ひとつ ひまわり』『ずるがしこいジャッカル』(ともに「こどものとも年少版」)、『びんぼうがみさま』(「こどものとも」、以上福音館書店)、『だんだんのみ』『はなたれこぞうさま』(ともに岩波書店)など。著書に『なにしてあそぶ? 福知さんちの親子あそび日記』(福音館書店)がある。「ちいさなかがくのとも」作品に本作のほか、『すういの とん くにゃり』(通巻49号)『バナナだんちょうの だいサーカス』(通巻66号)『なぞってみたよ』(通巻132号)『たけのこぐんぐん』(通巻182号)などがある。静岡県裾野市在住。

書誌情報


読んであげるなら:3才から
自分で読むなら:―
定価:―(10冊セット定価9,900円)
ページ数:24ページ/1冊
サイズ:21×24cm/1冊
初版年月日:2021年9月27日
シリーズ:ちいさなかがくのとも10 Ⅳ