新作『ぞうくんの おおゆきさんぽ』(こどものとも年中向き2022年1月号)刊行記念


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

「絵本作りの現場から」では、みなさんのお手元に届いている絵本がどのようにして作られているのかを、作者や編集者の声でご紹介します。絵本完成に至るまでのさまざまなエピソードをどうぞご覧ください。

こどものともひろば 運営係


「ぞうくんのさんぽ」シリーズ待望の新刊『ぞうくんの おおゆきさんぽ』が、今月刊行されました! 

これまで、晴れの日も、雨の日も、そして大風の日もさんぽを楽しんできたぞうくん。

今回は、たっぷり積もった雪を背負いながら、さんぽを楽しみます。

おおらかなぞうくんと仲間たちのシンプルで愉快な絵本『ぞうくんのさんぽ』第1作が生まれたのは1968年

今から50年以上前のことになります。

そのころの誕生秘話を、作者のなかのひろたかさんに語っていただきました。

どうぞご覧ください。

※前作『かめくんのさんぽ』が刊行(2019年)された際に、なかのさんにうかがったエピソードの再録です。


『ぞうくんのさんぽ』で思い出すのは、「こどものとも」の編集長だった松居さんと、はじめて会ったときのことだね。松居さん(*1)『100まんびきのねこ』(*2)を見せてくれてね。「なかのさん、この絵本はアメリカで50年読まれています。日本にはまだ、50年読まれる絵本はありません」と言うんだ。50年……これから50年後まで読まれる、というのがどういうことなのか、そのときの僕にはぴんと来ませんでした。

松居さんに会ったのは、朝倉摂さん(*3)の紹介がきっかけ。通っていた桑沢デザイン研究所(*4)の課題で絵本を作ったら、「絵本をやりたいなら、いい出版社があるよ」って、福音館を教えてくれたんだ。とはいえ、当時どういう約束をしたのか忘れたけれど、いざ!と思って行ってみたら松居さんはいなくてね。かわりにぼくを迎えてくれたのは犬で(笑)。そう、当時の福音館は会社というよりふつうの民家みたいなところで、犬も飼ってたりして、「妙なところに来ちゃったなあ」と思ったもんだよ。 

とりあえず原稿をひとつ預けて帰ったら、その夜、松居さんからうちに電話がかかってきたんだ。「原稿おもしろかったです。うちで出します」って。それが最初の絵本『ちょうちんあんこう』(*5)。そのあと、今度はちゃんと松居さんに会ったら、先の『100まんびきのねこ』を見せてくれたってわけ。それが僕と福音館との付き合いのはじまりでした。

その後、「よし2作目を出すぞ」って新しい原稿を持って、また松居さんに会いに行ったんだけど、ふたつ持ってきたうちの自信がある方を見せたら、松居さんがいい顔をしないんだね。それでこっちはしょげちゃって、もうひとつの原稿は見せる気力もない。そしたら松居さんが、「そっちの包みは何ですか」と言うんだ。それで仕方なく見せたら、じっと読んでから、今度は水口さん(*6)を呼んで読ませるんだ。それで、
「どうだ」
「おもしろいですね」
「だろう」
で、決まり。それが『ぞうくんのさんぽ』(*7)。あのとき「見せろ」と言われてなかったら、「ぞうくん」は生まれてなかったですね。

それから月日が経って……ある日、福音館から「今年で『ぞうくんのさんぽ』は50年になります」って聞かされて、ああ、そうかと。あのとき松居さんに「50年読まれる絵本」と言われて、ほんとうにそれができたんだな、ってちょっと感慨深かったですね。 

ひょんなことから、36年ぶりの続編『ぞうくんのあめふりさんぽ』を出し、さらに『ぞうくんのおおかぜさんぽ』、そして今回の『かめくんのさんぽ』まで生まれたけれど、いやあ、ぞうくんはよくぞ50年も散歩を続けてくれたものだ、と思います。


*1:松居直(まついただし)。月刊絵本「こどものとも」初代編集長。現福音館書店相談役。

*2:アメリカの絵本作家ワンダ・ガアグが1928年に発表した絵本。

*3:舞台美術家、画家。挿絵の仕事に『三月ひなのつき』(福音館書店)など。

*4:デザイナー桑澤洋子(くわさわようこ)によって1954年に設立されたデザイン専門の学校。

*5:「こどものとも」1966年9月号。深海に住むちょうちんあんこうが月に会いに行くストーリー。

*6:水口健(みなくちたけし)。1958年に福音館書店に入社し、絵本の編集などに従事。文を手がけた絵本作品に『かいたくちのみゆきちゃん』(福音館書店)など。

*7:「こどものとも」1968年6月号。

こどものとも年中向き2022年1月号『ぞうくんの おおゆきさんぽ』 紹介はこちら>>

作者情報


なかのひろたか(中野弘隆)


1942年、青森県生まれ。桑沢デザイン研究所リビングデザイン科卒業。アニメーション・スタジオ、デザイン会社勤務を経て、絵本の創作に取り組む。自作の絵本に『ぞうくんのさんぽ』のシリーズの他、『なきむしおばけ』『およぐ』など、絵を手がけた作品に『ゆうちゃんとめんどくさいサイ』(文・西内ミナミ)『3じのおちゃにきてください』(文・こだまともこ/以上、福音館書店)などがある。東京都在住。

書誌情報


読んであげるなら:4才~5才向き
自分で読むなら:―
定価:440円(本体400円)
ページ数:32ページ
サイズ:27×20cm
初版年月日:2021年12月1日
シリーズ:こどものとも年中向き