「母の友」2018年9月号の記事を転載してお届けします。「母の友」は、園や家庭で、子どもたちとの日々がもっと楽しくなるような「子育てのヒント」と「絵本の魅力」を毎月お伝えする雑誌です。

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絵本を作る人17
齋藤 槙さん 『ぺんぎん たいそう』

『ぺんぎんたいそう』は「こどものとも0.1.2.」の 2013年10月号として刊行され、 大人気となり、2016年には書籍化もされました。

作者の齋藤槙さんは、動物や植物などの様々な 生き物を色彩豊かに描く絵本作家です。 齋藤さんがどのようにして絵本を作る人になったのか、 年間パスポートを持っているほど通っているという 上野動物園でお話を伺いました。

「動物園も水族館も子どもの頃から大好きで、よく連れて行ってもらいました」と、齋藤さんは話します。

齋藤さんは東京生まれで、 幼少の頃から中学生になるまで、上野動物園や池袋のサンシャイン水族館に連れて行ってもらっては、一日中生き物たちを眺めていたそうです。

中学、高校時代は吹奏楽部で、部活にも夢中になっていたそうですが、齋藤さんが、絵本作家という職業を意識し始めたのは高校生のときが最初だったとか。

「幼少期によく絵本を読んでもらっていたのですが、本屋さんで久しぶりに絵本に再会して、その頃の自分を思い出したんです。

人の心の深い所に残るような作品を作るっていい仕事だなと思って。

絵を描くことは好きだったので、そのときに絵本作家になりたいと思ったんです」。

その思いを胸に高校卒業後、美大の日本画学科に進学します。

大学在学中に出された一つの課題が『ぺんぎんたいそう』 誕生のきっかけになります。

「動物園で好きな動物をスケッチして、日本画を制作するという課題でした。そのときに描いたのが、ひなたぼっこをしていたペンギンだったんです」。

この課題をきっかけに動物園の楽しさを思い出し、動物を描きたいと強く思うようになったそうです。

大学卒業後、創作活動を続けながら、 絵本作家を目指していた齋藤さんですが、なかなか“積極的な売り込み”はできなかったそうで。

「雑誌などの記事で、絵本作家になるためのノウハウとしてよく目にするのが、出版社に電話して編集者に見てもらうこと、なんですけど………。

そんな怖いこと、 私にはできませんでした」。

そこで齋藤さんは“消極的な売り込み”を思いつきます。展覧会を開くことにしたのです。「展覧会に編集者の方が来て くれたらラッキーだな、と」。

そこで、 福音館書店の編集者との運命的な出会いがありました。

「私は運が良かったんだと思います。友達のお母さんが、たまたま福音館の『ちいさなかがくのとも』の編集者とお知り合いで、その編集者を展覧会に呼んでくださったんです。そして貼り絵の象の絵を褒めていただいたんです」。

それがデビュー作になる『ながーいはなで なにするの?』(「ちいさなかがくのとも」2009年11月号、ふしぎたねシリーズで刊行中) につながっていきます。

『ながーい はなで なにするの?』より

この後、「こどものとも0.1.2.」の編集者との出会いがあり、2013年に『ぺんぎんたいそう』が月刊誌として、刊行されます。

「日本画の課題で描いたぺんぎんを元に自主制作した、初代『ぺんぎんたいそう」の絵本を、最初の展覧会のときから展示していたんです。

初代は写実的で墨一色なので大人っぽいのですが、編集者の方と相談しながら、赤ちゃんが楽しめるように色をつけたりして、リメイクしていったんです。 」

『ぺんぎんたいそう』は月刊誌として刊行された当時から大人気で、すぐに書籍化され、毎年の様に版を重ねています。

 「『ぺんぎんたいそう』は 私が初めて作った作品なので、感慨深いです。本当に うれしい。ペンギンありがとう。感謝の気持ちでいっぱいです」。

その後も齋藤さんは、次々と色彩豊かな動物が描かれた絵本を世に送り出しています。

『虹色いきもの図鑑』(「たくさんのふしぎ」2014年11月号、品切れ中)でも紹介されていたのですが、その色彩豊かな動物を描くための、特殊な能力を持っているそうです。

 「ものをじーっと見ていると、色々な色が見えてくるんです。

たとえば、木の壁があって、何色かと聞かれたら、多くの人は『茶色』と答えると思うんですけど、私には茶色だけではなく、緑とか紫も見えてくるんです。

私にとっては、その多 彩な色が真実の姿に見えるんですよね」。

絵を描くときにその色たちを重ねていくと、生き物らしさが出てきて鮮明になるんだそうです。

最新作(当時)『おしりじまん』 (「ちいさなかがくのとも」2018年9月号)も、たくさんの色を重ねて描いた動物たちが美しい絵本です。

これまで生き物を中心に絵を描かれてきた齋藤さんですが、これからは抽象画にも挑戦していきたいのだとか。

最近では、「夢うつつ絵日記」と題して、朝目覚めてすぐに抽象的な水彩画を描く、ということをしています。

「名刺サイズの和紙を枕元に置いておいて、起きたら、すぐにそれに水彩画を描くんです。覚醒している状態とはまた別の色と形が出てくるので、とても面白いですよ」。

そう言って、その場で水彩画を目の前で描いてくれました。

「一直線に絵本作家に向かってきているんですけど、まだそんなにたくさんの作品を作ってきたわけではないと思っています。 でも、これからはペースも速くしていって、いろいろ挑戦していきたいですね。これからどんな人生になるのか、どんな作品を作れるか、今から楽しみにしています」。

(まとめ・編集部)


<楽しく身体を動かそう!「ぺんぎんたいそう」(福音館書店)>

絵本『ぺんぎんたいそう』に出てくる体操の動画です。

赤ちゃんから大人まで、みんなが楽しく体を動かすことができますので、絵本を読んだあとは、実際に体操して楽しんでくださいね。


齋藤槙(さいとうまき)


武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業。絵本に『ぺんぎんたいそう』『ながーい はなで なにするの?』(ともに福音館書店)、「こどものとも0.1.2.」に『かめかめたいそう』(2021年5月号)、「かがくのとも」に『すいぞくかんの おいしゃさん』(2018年8月号)、「たくさんのふしぎ」に『虹色いきもの図鑑』(2014年1月号)、「ちいさなかがくのとも」に『ちいさな うみの かくれんぼ』(2013年5月号)『さくよ さくよ』(2016年8月号)『おしりじまん』(2018年9月号)がある。東京都在住。


中村史 文 齋藤槙 え
齋藤槙さく