2022年4月号で「ちいさなかがくのとも」が20周年を迎えました。

20周年記念として、ちいさなかがくのとも編集部・山北編集長にインタビューをしました。

—— 20周年おめでとうございます。

ありがとうございます。

20周年を迎えられたのは、先生方が、園の小さな読者さんに1冊1冊読み聞かせてくださってこそのことです。

福音館の月刊絵本は「子どもが自分で読むのではなく、読んでもらうもの」という考えのもと、耳と目で楽しめるように作られています。

先生方が読み聞かせてくださって初めて、絵本は子どもに届きます。

日々子どもたちに身近な科学の楽しさを伝えてくださることに、心より感謝を申し上げます。

——「ちいさなかがくのとも」は幼い子向けの科学絵本として、園で高い評価を得ています。どんなことを大切にされて作られていますか?

「ちいさなかがくのとも」の読者は4歳を中心とした3~5歳。

石ころや葉っぱにも心があると感じる、みずみずしい感性をもった子どもたちです。そんな子どもたちに届けたいのは、「知識としてではなく、感動として子どもたちに伝わる科学」です。

創刊号『からだのなかで ドゥン ドゥン ドゥン』(木坂 涼 文 あべ弘士 絵)は心臓の鼓動をテーマとした絵本です。

人、犬や猫、トカゲ、モグラ、クジラなど、様々な生きものの鼓動が聞こえてきます。

読んでもらった子は自分でも試してみたくなって、身近な生きものや大好きな人の鼓動を聞くでしょう。

そして、そこに命があることを実感します。

小さな子にとっては、心臓の働きを“知る”より、命の音を“感じる”ことの方が大きな喜びになる――「ちいさなかがくのとも」は、子どもたちが「自分でやってみたい!」と感じてくれる絵本作りを目指しています。

絵本を楽しんでくれた子がすぐに実体験できるように、テーマは子どもに身近なものばかり。

難しいのは、「どんな絵本作りをしたら、子どもたちが“面白い”“やってみたい”と感じてくれるか」ということです。

そのために、作者の方々は時間をかけてテーマと向き合い、どうすればその魅力を子どもたちに伝えられるだろうかと試行錯誤を重ねられます。

作者の皆さんは、身近なところにある「面白い!」「ふしぎ!」を誰よりも楽しんでいる大人たちです。

取材では、しゃがんで子どもと目の高さを同じくし、そこから世界を見ます。

子どもたちの目の先にはどんなすてきなことがあるの?

大人が真剣にワクワクしながら、公園で、野山で、海や川で取材を重ね、絵本を作っています。

「ちいさなかがくのとも」は「ほら、ここにすてきなものがあるよ」と子どもに呼びかけていく絵本です。

絵本を通じて、身の回りに1つ1つ、子どもの「好き!」が増えていったら……その子の毎日も、そばにいる大人の毎日も、もっともっと心ときめくものになると信じています。

—— 編集をしてきたなかで、思い出深い「1冊」はありますか?

う~ん、困った。どの絵本も、作者の方と取材や話し合いを重ねて何年もかけて生まれた、我が子のような存在なので……。

どうしても1冊を選ぶなら、『わたしの だいこん』(2019年11月号/飯野まき作)でしょうか。

主人公が1本の大根をぬくシンプルなお話に、取材で子どもたちに教えてもらったことが詰まっています。

大根をテーマに企画がスタートした当初、作者の飯野まきさんは「“大根をぬく”だけで絵本が出来るだろうか。もっと他の要素が必要?」と悩まれていました。

どんな絵本にしたら、読者に「やってみたい」と感じてもらえるのか?

子どものことは子どもに教えてもらおうと、飯野さんとともに、いくつかの園の大根ぬき行事にお邪魔しました。

ある園の大根ぬきは、「好きなのをぬいていいよ」と言われた子どもたちが畑で大根を選ぶところから始まりました。

「葉っぱ、チクチクする」と言いながら葉をかき分けて自分の大根を決め、ぬき始めます。

う~んと引っ張り、体勢を変えてまた引っ張り……格闘の末に自力でぬいた背丈の半分もある大根を掲げて歩く子どもたちの姿は、何とも誇らしげです。

中に、なかなかぬけない女の子がいました。

全力で引っ張るのにどうしてもぬけない。

涙がぽろぽろ、顔は泥だらけ。でも、手を変え品を変え引っ張るうちに、すっぽーん! やっと大根はぬけました。

ぬいた大根を愛おしげに撫でる、その子の涙の笑顔は忘れられません。

子どもたちの様子を見て、飯野さんの迷いは消えました。

「読者に“やってみたい”と感じてもらうには、実際に大根をぬいた子が最も心躍らせた瞬間を、丁寧に描くのが一番だ!」と。

その後、農家の方への取材、ラフ画の描き直し、言葉の練り直しなどの気の遠くなるような検討を重ね、飯野さんは1本の大根と向き合う物語を仕上げてくださいました。

ぜひ絵本をご覧ください。取材で出会った子どもたちの表情が、声が、そのまま詰まっています。

—— 子どもたちの反応が嬉しかった「1冊」を教えてください。

『ふしぎな わっか』(2022年4月号/富安陽子 文 堀川理万子 絵)ですね。

指で作った小さなわっかに、トラックや家がすっぽり収まる不思議を描く絵本です。

ある園で、先生が読み聞かせをしてくださいました。

子どもたちは絵本に合わせて手でわっかを作ったり、絵本のタワーをつまんだり、ユーモラスな場面で笑い転げた後に「もう一回読んで」と言ってくれたりと、大いに絵本を楽しんでくれました。

そんなに楽しんでもらえて本当に嬉しかったのですが、子どもたちの「やってみたい」につながることを目指す絵本としては、そこからが肝心。

読後の様子を固唾をのんで見守ります。

すると子どもたちは、先生をわっかに入れようと、わっかをのぞき始めました。

次は先生をわっかからはみ出させようとして、キャアキャア言いながら先生に大接近! 

お散歩先でもバイクや公園の遊具をわっかに入れたり、友達と互いをわっかに入れ合ったり。

子どもたちがこのように自ら体験を広げてくれるのを見て、「作家さんの想いが子どもたちに届いた!」と感無量でした。

また、子どもたちとの時間の中で、私自身の貴重な体験も。

1人の子が「ぼくをわっかに入れて」と近づいてきました。

私がわっかを向けると、「ぼく、入ってる?」と聞くんです。

「入ってるよ」と答えると、本当に嬉しそうな照れたような顔で笑うんです。

そして次の瞬間、「わっかからはみ出したー」と言いながら、私におでこをぶつけるようにくっついてきてくれたんです。

そのとき私はその子から、とっておきの贈り物をもらったように感じました。

「わっかに入れてみる」という体験や「遠い物は小さく見える」という発見の喜びだけでなく、「人と触れ合いながら身体中で感じ取る」という感覚的な喜びをも求めているのは、幼い子ならではのことではないでしょうか。

そんな柔らかな感性に応えられる科学絵本をこれからも作っていきたいと改めて思いました。

—— 20周年を記念して、なにかありますか?

4~6月号の折込付録で、「100センチの世界」と題した記念ポスターをお届けします。

なぜ「100センチ」? それは、読者である4歳の子どもたちの平均身長が約100センチだからです。

子どもの目の高さから眺めた世界に棲む生きものと自然が、4月~6月頃の季節に合わせて美しく描かれています。

ポスターの作者は おおたぐろまり さん。

『つばきレストラン』など多くの絵本で身近な生きものを描かれる おおたぐろさんが、子どもたちが出会いやすい虫や植物をたっぷりと描き込んでくださいました。

ポスターは4~6月の3号分を縦に貼り合わせることで、足元から目の高さまでの「100センチの世界」を再現した特大ポスターとなります。

ぜひ園の壁に貼って、「この虫、お庭にいたね」とお楽しみください。

20年にわたり子どもの「目線」に寄り添って本づくりに取り組んできた、「ちいさなかがくのとも」の想いをお届けできたら嬉しいです。

—— 最後に園の先生にお伝えしたいことはありますか?

作者の方々は気の遠くなるような検討を重ねて絵本を作られ、子どもたちに「ほら、ここに面白いものがあるよ!」と語りかけます。

そのバトンを子どもたちに渡してくださるのは先生方です。

大好きな先生が絵本を読んでくださるからこそ、子どもの心に「やってみたい」の灯がともります。

子どもが実際にやってみたとき、「すごいこと見つけたね」と先生に共感してもらえたら、発見の喜びはますます大きくなります。

そうやって「かがくの芽」は育ちます。

どうかこれからも「ちいさなかがくのとも」を子どもたちに読んであげてください。

日常の中に「すてき!」「面白い!」を見つける絵本を、これからも誠意を込めてお届けして参ります。