作者


佐藤克文 文/きのしたちひろ

内容紹介


ウミガメやアザラシ、ペンギンなど、海の動物は繁殖やエサとりのため、なんの目印もない海を数百キロから数千キロも迷わず移動できるというすごい能力をもっています。

どうやって自分の位置と目的地の方向がわかるのか? 

それを解く鍵になるかもしれない、海の動物がする謎のグルグル運動を最新科学で調査します。

野生動物研究の現場をリアルに描いた作品です。

担当編集者 より


「動物たちは海の上を迷わずに数百キロから数千キロも移動する」。人間に置き換えて考えてみると、これがとんでもない能力であることがわかります。地図や方位磁針などなんの道具も使わずに、船で海を移動して、数百キロも離れた目的地にむかうのはほとんど人間には不可能です。現代ではGPSを使い、昔は星や太陽の位置が利用されてきたように、人の長距離移動にはこうした技術が不可欠です。
では、動物たちはどうやって、自分の位置と目的地の方向がわかるのでしょう? 視覚や嗅覚を使うなどいろんな説がありますが、この作品では動物が「地磁気」を使っているのではないかという視点から、動物たちのナビゲーションの謎に迫ります。
きっかけはウミガメの調査でした。頭のむきや、泳ぐ速さ、潜った深さを記録する小さな機器とGPSをつけて、ウミガメの海での移動経路と行動を調べたところ、海の上で多い時で76回もグルグル回っていたのです。これはいったいなんのために? 調べてゆくと、この行動が謎に包まれてきた動物のナビゲーションを解く鍵になるかもしれないことがわかってきます。
文章を担当したのは、小型記録機器を使い、野生動物の調査を行う研究手法「バイオロギング」の第一人者、東京大学大気海洋研究所の佐藤克文さんです。「たくさんのふしぎ」では、『動物たちが教えてくれる 海の中のくらし』(現在、「たくさんのふしぎ傑作集」/小学校国語五(東京書籍)にも掲載)に続き2作目です。そして、絵を担当したのは、佐藤さんの研究室で博士号を取得し、海洋動物の研究者をしながら、イラストレーターとしても活動する、きのしたちひろさん。本作がはじめての絵本です。
研究者の苦労やよろこびを知る2人だからこそ、調査現場の様子や研究者たちの議論など、細部の描写がさえわたっています。現場に行ってデータをとり、思考しながら謎を解いていくという研究の醍醐味を追体験できるとともに、調査のこぼれ話のような思わずくすっと笑ってしまうところも随所にあります。文と絵を同じ分野の研究者2人がタッグをくんで作られた絵本はめったにありません。なかなか見ることのできない野生動物研究者たちのリアルな世界を楽しんで頂ければと思います。

作者情報


佐藤克文(さとうかつふみ)


1967年、宮城県生まれ。東京大学大気海洋研究所教授。農学博士(1995年京都大学)。ナショナルジオグラフィック協会のエマージングエクスプローラー受賞(2009年)。著書に『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』(光文社新書)、『巨大翼竜は飛べたのか』(平凡社新書)などがある。絵本に『動物たちが教えてくれる 海の中のくらし』(福音館書店)があり、2020年より小学校国語五(東京書籍)にも掲載されている。絵本の中の教授のように、研究室の大学院生たちを、世界中のフィールドに送り込みたいといつも考えています。

きのしたちひろ


岡山県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科卒業。農学博士。2022年より名城大学に特別研究員として在籍。ウミガメや海鳥の研究を行いながら、イラストレーターとしても活動中。絵本の中で、トモコとユースケに先越されてしまいましたが、南極はいつか行ってみたい場所です。

書誌情報


読んであげるなら:―
自分で読むなら:小学中学年から
定価:770円(税込)
ページ数:40ページ
サイズ:25×20cm
初版年月日:2022年11月01日
通巻:たくさんのふしぎ 452号