はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

こどものとも年中向き 2020年9月号『つきの かがやく よる』


この絵本の物語の世界は絶妙だなと感じました。

絶妙というのは、感覚的に子どもたちの世界に入れたという巧みさです。作者は狙って描いたのか、狙わずしてこうなったのかは分からないところです。

でも、届いた瞬間に、あー子どもたちは好きだろうなと感じることができた久々の絵本です。子どもたちの思い描く世界に近いだろうなと。

ストーリーは、シンプルです。

月の輝く夜、クマの親子が湖へ釣りに出かけました。

「とうちゃん とうちゃん、釣れたよ」と喜ぶ子グマに、父グマは答えます。

「月夜の魚釣りは、たくさん魚が釣れるんだ。それはね、眠れない魚がおなか空かしているからなんだ」。

それからも釣りは続き、金色の魚や金色のワニまでかかります。そして最後には・・・』というようなストーリーです。

絵は柔らかく、白と黒のコントラストと月の輝く色合いは、美しいの一言です。

実際に子どもたちにも読んでみました。

やはり、一瞬で世界に入り込むことができます。

大人からは親子の物語として紹介されていますが、そういうものを飛び越えて、子どもたちは絵本の想像の世界に入り、不思議で美しい世界にずぶずぶと入りこんでいく様子が見て取れます。

そうさせるものは何か?

次々とかかる獲物なのか、親子の会話なのか、月の美しい絵なのか、ストーリーの持つ雰囲気なのか、最後の大きな獲物によるところなのか。

そうなのです。この絵本の本当の良さは子どもたちにしかわかりません。

つまり、入口がたくさんあるということなのです。絵本の世界への入り口が広く、そして大きく、どこにでもあるような感覚です。

どこからでも入れるが、いったん入ると、その絵本の世界で、4歳児の子どもたちは、みんなで楽しんでいました。

ここまで入り込むことができるならばと、普段、白いうさぎをテーマにする、ちぎり絵の造形表現活動を、この絵本に変更しました。

ごっこ遊びにするのは、正直野暮だと感じました。

すでに世界に入り込めている子どもたちの想像に横やりを入れる必要がないと思ったからです。

それならば、素直に自分の着目しているところを表現できる造形表現活動が好ましいと考えたのです。子どもたちは、喜んで参加の意思を表明しました。思い思いのクマが月の輝く夜で遊んでいます。

絵本が表現へとつながっていくことも、決して子どもの世界を侵害することにはなりません。むしろ、よりその絵本の世界への入り口と広げていくことにもなります。

美しい言葉と絵が、子どもたちを豊かなイメージの世界へ誘う姿を見せてもらえた嬉しい絵本でした。

こどものとも年中向き 2020年9月号『つきの かがやく よる』
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執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。