はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

子どもたちと絵本を通して感じ合う

―『ふゆをみつけたよ』こどものとも年少版2023年12月号 ―


前回の連載でも「生活」ということを強くとりあげました。そして、その生活には季節の巡りを楽しむことも少し盛り込みながら書かせていただきました。

今回の絵本も季節感のある絵本です。

最近、出版される絵本の中では、あまり見なくなったタイプの絵本です。昭和生まれの私にとっては、とても馴染み深く、子ども時代のノスタルジーにも浸ることができる絵本です。

「春夏秋冬」

この言葉は、日本で過ごしていく時に大事にされている価値観のように思います。

春には春の過ごし方があり、夏には夏の過ごし方があり、秋には秋の。冬には冬の過ごし方が、各地域によって存在します。それは地域性にささえられ、文化的であり、社会的でもあり、ふるさとを思い出すための言葉でもあります。

さて、今回出た絵本は「冬」の絵本です。『ふゆをみつけたよ』という「こどものとも年少版」の絵本です。この絵本では、冬の食べ物、植物、生き物、衣服、食べ物、お菓子、行事、天候、身体、遊びと、子どもたちの周りにある環境を見ることができます。

都会や田舎は関係なく、知識の量も関係なく、「あー、なんか言われてみると、これは冬だな」と感じることができるものが図鑑的にも、言葉としても羅列されています。

子どもたちも全てを知らないからこそ、「見つけたよ」という題名が意味を持ちます。

「冬」を読者である子どもたちも「見つける」のです。

ここからは私なりに子どもたちと読み合いをしてみて、さらに絵本に説明を加えていきたいと思います。こういった絵本は、何を順番に子どもたちと読んでいくか、その構成が重要なことが分かります。

まずは、子どもたちの大好きな雪だるまが表紙を飾ります。なぜか手が一本ありません。子どもたちの遊びの途中かもしれません。

絵を見た子どもたちは「雪だるま―!」と大興奮です。現代の子どもたちも、色々な物語やアニメに触れており、雪だるまは人気者です。そこから、冬の世界に入っていきます。

表紙の裏には、雪の結晶が見えます。ここも冬の世界を感じるためには、巧みな表現です。子どもたちも自然と受け入れ、「雪」とつぶやく子もいます。

子どもたちは、こういった絵本の雰囲気創りやデザインみたいなものに敏感で、その絵本のテーマみたいなものを吸収しようとします。

次に子どもたちが知っている磯辺焼きのお餅です。この「見つけたよ」の春夏秋冬の絵本シリーズでは、ここで食べ物が出てきます。2018年7月号『なつをみつけたよ』では、スイカでした。

雪だるまで心をつかみ、次にお餅という食べ物で子どもたちの心は掴まれます。お餅も冬の食べ物なのだと感じることができます。

そして、冬の花木が咲き誇ります。ツバキです。子どもたちは、その花の名前は知らなくとも、いくつも咲き誇る花の色を見ただけで歓声がおこります。「わー!キレイ!」と。知識よりも、子どもたちの感覚に訴えます。梅、ロウバイ、スイセン、クリスマスローズなど、冬の花々を見ると、「なんていうお花?」と質問が起こります。保育者が「クリスマスローズだよ!」と言うと、「クリスマスのお花!すごーい!」と自分たちの知っていることの中でも、やりとりを楽しもうとします。

その冬の花木に集まる鳥たちです。冬に見られる鳥たちは、枯れ木の代わりに冬を彩ります。子どもたちも「きれいな鳥。」とつぶやく子もいます。保育者が好きな鳥がいたので、「私はこれが好きなんだ。」とジョウビタキを指すと、子どもたちも口々に自分の好きな鳥を伝えてくれます。ここで少し自分たちの知らないものが続いてきました。

ページをめくると自分たちが最近着始めた衣服が並んでいます。帽子、手袋、マフラー、ジャンバーなどは、子どもたちが嬉しそうに「○○の帽子はピンク。」などを話し合う様子も見られます。子どもたちのより身近なものに戻りました。

すると次は食卓に並び始めるお鍋です。温かそうに見えるのでしょう。やんちゃな子たちは「アチ!アチ!アチ!」と盛り上がっています。さらに次のページは子どもたちの大好きなお菓子の登場です。寒い季節だからこそ、おいしく感じるたい焼き。心から身体が温まるココアなど、食べたくなるのオンパレードです。

さらに、次にはクリスマス。これほど、子どもたちが心ときめく行事もありません。プレゼントやクリスマスツリーの飾りに心躍ります。子どもたち同士で顔を見合わせて、嬉しそうに話しています。

これから出会うかもしれない氷や霜柱やツララの煌めきと輝きは、少し子どもたちに静かな時間を与えました。園庭を見つめている子もいます。読み終わったあとに、「ねーねー、氷って冷たいんだよ。」と話しかけてくれる子もいます。

寒さを感じた後のページには、寒さの中で自分の身体に起こりえる変化が描かれています。これは体験のある子は、はーと息を出してみる子も、ほっぺたを触る子もいます。身体から、イメージから寒さを感じています。

お正月の遊びの玩具には興味津々です。触れたこと、見たことあるものだけでなく、知らないものにも、「どうやって遊ぶの?」と保育者に聞いてきます。説明を聞くと「やってみたい!」と話します。これは1月の環境にもちろん構成されます。

そして、降り積もる、どこか懐かしい風景の雪景色を見たあとは、冬野菜などの食物や雪の造形物を見ることができます。当園の3歳児は「カニだー!!」と遠足の水族館の影響か大きな反応を示していました。

このように、一つ一つのページで子どもたちなりの感じ方をしています。

ただ、読むだけでは、地味な絵本かもしれません。特に目立った知識が教えられるわけでもありません。

しかし、ゆったりとその季節にあるものを子どもたちと感じ合える時間をくれる絵本は、私にとっては嬉しい絵本ですし、稀有な絵本です。

日々の保育の中で、子どもを育てる中で、意図的にこういった絵本を選ぶことはあまりありません。月刊絵本だからこそ、自然と出会うことができ季節の巡りを感じ合うことができます。

まさに、生活の中に溶け込むような絵本です。

春夏秋冬を感じることができる絵本。皆さんのまわりにはいくつありますか?

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。