はじめに
いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。
福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。
今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。
毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。
月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。
の連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。
それではどうぞ、お楽しみください。
こどものともひろば 運営係
ちいさなかがくのとも 2022年6月号『みかづきのよるに』
知り合いが、「これ僕はね、好きなんだよ。」と持ってきた月刊絵本。
それがちいさなかがくのとも2022年6月号『みかづきのよるに』です。
題名からして、何か情緒的で詩的な絵本なんだろうかと想ったが、ジャンルは「ちいさなかがくのとも」という科学絵本。
どんな絵本だと思い、その絵本の世界を開いていくと、そこにはまさにリアルであり、幻想的であり、光と闇の世界がありました。
その知り合いに「あー、これはいいね。すごくいい。」と伝え、「でも、賛否両論あるだろうね。」と言うと、「そうなんだよねー、でも僕はいいと想うんだよ。」と返事がきます。
では、良いか普通かはどう判断したらよいでしょう。
こういう時の私の行動は大体決まっています。
「子どもに聞こう」です。
なぜなら子どもたちが、ほとんどの場合は答えを持っているからです。
「読もうか!?」と言い、その場にいる子どもたちと読み合うことになりました。3歳児から5歳児の子どもたちとです。
私:表紙を見せて題名を読みました。
子ども:「みかづき?月ある!」と口々に表紙の絵を見て話します。
私:絵本をひらき、「おとうさん、いこうよ。まだ~~中略~~」と読む。
子ども:どこか行くのか?といぶかしげに聞いている様子。
私:次のページ。「さあて、いこうか。」と読む。
子ども:「え?どこ?」と暗闇と外灯、家の電気の明かりに目をこらしている。
私:「おつきさま!おお、~~~」と続けて読んでいく。子どもたちによく見えるように、絵本を目の前に突き出して見えるようにする。
子ども:「どこどこ?」「あ!いた!」「かえるのこえだ。」と思い思いに話している。
私:「まっくらだよ~~」と続けていき、再び見やすいように絵本を動かす。
子ども:「あの明かりは?どこいくの?」と静かに見入り始める。
私:父と子の手の部分だけのページを読む
子ども:静かに見いるように、聞いている。
私:「ねえ、おばけとか~~」と読む。
子ども:「怖い。まっくら。」と言いながら、目をこらしている。
私:「かいちゅうでんとう、けすよ」と読むと、
子ども:絵本と同じように、「えー!大丈夫?」と言う。
私:次のページをめくる。
子ども:「わー、ほたるだ。」と言う。
私:捕まえようとするページ
子ども:じっと絵本を見つめている。
私:手の中に入ったページ。文字なし。
子ども:「うわー。きれい。」
私:手から飛んだページ。
子ども:「あ!逃げた。」
私:「手のにおいかいでみな。」と父が言う。次のページには手のにおいを嗅ぐシルエット。
子ども:自分の手を鼻に持って行く子もいる。
私:裏表紙を見せる。
子ども:「つながってる?」
私:表紙と裏表紙を広げる。
子ども:「あ!つながっている。」「あれ?お月様2つあるよ。」
私:「え?あ、本当だ。」
子ども:「こっちは、歩いているよ。」「月が低くなってる。」
私:「つながってる?」
子ども:「つながってない。こっちは帰ってるとき。」
と、このような一連の流れの読み合い場面でした。
いかがでしょうか?
僕は非常に感銘を受けました。
最後の裏表紙と表紙の違いは僕も気づいていませんでした。子どもたちから教えてもらった時間の経過です。
全編の中で続く、父と子の夜のお出かけ。
それを追体験するように、子どもたちは絵本を読み込んでいます。
一見すると、真っ暗で読みにくい絵本のように想われます。
また、大人は科学絵本として体験的に考えるかもしれません。
しかし、子どもたちは、そんな大人の予想を飛び越えます。
もっと深いところでつながろうとしています。
光と闇の美しさ、蛍という生き物の神秘性、父と子の関係性、時間の流れ、空間の雰囲気、肌の触れあい、匂い、音など、子どもたちが一人一人自分の感じるままに入り込むことができる絵本です。
科学か物語なのかではなく、感覚を総動員する絵本。
そういう絵本は少ないのかもしれません。
こういう絵本に出会い、子どもたちと読むと、その見方、読み方を子どもたちから学ぶことがあります。
子どもが読み込んでいるのです。大人より先に、その絵本の世界を。
5歳児の女の子が最後に言いました。「この絵本好き。」と。
それが全ての答えではないでしょうか。
執筆者
松本崇史(まつもとたかし)
社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。
鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。
一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。
現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。
言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。