はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。その間、社会情勢の変化に伴い、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しました。

しかし、「子ども」の本質は今も昔も変わらないでしょう。

それは、福音館書店の月刊絵本が今日でも多くの園の先生によって保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実にも表れています。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新作絵本」を世に出すことができたのだと実感しております。

今回、当社の月刊絵本を保育に取り入れてくださっている長野県長野市のころぽっくるこども園の園長、久保浩司先生から福音館書店の月刊絵本にまつわるエッセイをご寄稿いただきました。

全3回でお届けの予定です。

それではどうぞ、お楽しみください。

  1. 月刊絵本との出逢い~種まき~(←この記事)
  2. 月刊絵本を取り入れてからの保育 ~種の生育期~
  3. 今の保育とこれからの月刊絵本に願うこと ~刈取り~(←2024年1月公開予定)
こどものともひろば 運営係

衝撃的でした。

平成23年(2011年)1月22日でした。

今もその状況が目に浮かんできます。

講師は、

「私は裸足で大地に立ってお話をしたい」

と言って、おもむろにスリッパと靴下を脱ぎました。

講演の内容よりその時の講師の姿勢、発した第一声の言葉が心に響いています。ちなみに演題は「もういくつねるとおしょうがつ」でした。

この方が、福音館書店の長野地域の代理店をされている東北信こどものとも社(なるに屋)の柳澤幹男さんでした。この寄稿にあたり、思い返した時にまず最初に浮かんだ私の福音館書店さんとの出逢いでした。

毎年恒例である、当法人が運営する姉妹園との2園合同の園内研修会で外部講師としてお招きした方です。

柳澤さんが園に来ると、車にはいつもびっしりと本が積まれて、理事長と絵本を持ちながら、まるで自分が絵本の主人公のように熱烈にお話をしている。そんな姿から、この方は何をしにこの園に来ているのだろうかと私は想像したものです。

そんな折に、理事長が姉妹園の園舎を建て替えるにあたり「新しい園舎ではもっと絵本コーナーを充実したい。」と、柳澤さんに新たに絵本を購入するお願いをしました。

そして、子ども達が手に触れて、見たい気持ちになるような絵本を選んで頂きました。その過程で改めて絵本の素晴らしさを私自身も学びました。

たとえば、かわいらしく描かれているものだけが良いわけでなく、自然な美しさや迫力感、力強さが描かれている絵本もあること。

また、表紙の色などにも作者の意図があり奥深さがあると共に、子どもの心をくすぐるような絵本となっていること。

そのような中で、職員からも「 絵本について学びたい 」との声があがり冒頭の研修会が行われました。

その時の職員の感想に

「私は五感と絵本が関連しているというお話を聞き驚きました。目からの刺激や絵本を実際に手に取って感じることは視覚や、触覚を育てるということに繋がり、電子化になっている今の時代、絵本という存在は貴重なものだと実感しました」

とありました。
 

この研修会から、絵本を通して子どもと向き合う時の姿勢の大切さを教えていただき、そして、絵本を柱として子ども・保護者・職員が繋がる大切さも知ることが出来ました。

東北信こどものとも社さんには、「わらべの会」があり、絵本などの啓蒙活動をしています。その会に、いつも理事長が参加していて、福音館書店と国際子ども図書館の視察が予定されていました。しかし、急きょ、私が行くことになり、その時絵本の原画を見せて頂きましたが、とても感動した記憶があります。ほんとうに素晴らしい絵であり、その原画から絵本になるまで、福音館書店の方々が子どもたちに届ける道のりを実際に体験できた事は貴重な糧となりました。

そして、そのきっかけを受けたことに感謝し、それを伝えていかなければと実感致しました。今まで絵本を読んでいた時とは違い、この作成の背景<思い・願い・メッセージ>を知った上で子どもたちに読むと、より子どもたちは目を輝かさせて聞いていました。

講演から2年後に、どのように絵本に向き合い取り組むのか職員の中で話し合いました。

園で過ごす時間だけでなく家庭においても日常の生活の営みとして絵本が身近にあってほしい。そして、それは全園児に共通の思い出を作ってほしいとの願いから、平成25年(2013年)全家庭に月刊絵本を購入して頂くこととなりました。

自分たちで決めたこととはいえ、その方針に職員も驚きましたし、保護者からの賛同が得られるのかと、不安と心配が入り混じりました。

新学期が始まり、4月に行われる保護者向けの説明会にて、絵本の素晴らしさを伝えるべく、園のねらいを3つ定めた事をお話ししました。

そのねらいとは、

1.“絵本”を通して、お話の世界を楽しみ、想像力を豊かにしていく

2.“絵本”を通じて、園と家庭の繋がりを築いていく

3.乳幼児期に合った“絵本”を伝え、親子の絆を深めていく

その説明会の後、数件の質問や問い合わせはありましたが、絵本の大切さを共感してくださる保護者の方が多くほっと安堵したものです。

この『園の現場から』シリーズは、

第1回の種まきでは、

【月刊絵本との出逢い】

第2回の種の生育期では、

【月刊絵本を取り入れてからの保育】

第3回の刈取りには、

【今の保育とこれからの月刊絵本に願うこと】

で構成しようと思っています。

あの日あの時の福音館書店での原画との出逢いがすべての始まりとなり、いまに至っています。


お話のあとがき

 絵本を車に沢山積んで園に来てくれるサンタクロースさんは、柳澤さんから次の担当へと引き継がれ、その方との会話に楽しいひと時を感じています。
 今まで、沢山の絵本を通して子どもたちに愛情を届けてくださり、私たちの見聞も広げ導いて下さった柳澤さんはじめ、その関係者の方々に、この場でお礼を申し上げます。

執筆者


久保浩司


社会福祉法人 はなぞの会 ころぽっくるこども園 園長
寄稿 『保育者の働き方改革』 中央法規 2021