はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

こどものとも 2021年6月号『あめのひのぼうけん』


この絵本は作者の森洋子さんのシリーズものです。「あっちゃんシリーズ」「不思議の国シリーズ」とでも呼びましょうか。

白黒と赤のコントラストが美しい、なんとも言えない雰囲気を醸し出す絵本です。

これまで『まよなかの ゆきだるま』『おるすばん』『さがしもの』『おまつり』と出ていましたが、

こどものとも2009年12月号
※傑作集(ハードカバー版)あり
こどものとも2013年2月号 ※現在、品切中
こどものとも2015年10月号 ※現在、品切中
こどものとも2017年9月号 ※現在、品切中

今回はシリーズ5冊目の『あめのひのぼうけん』です。

梅雨時期の6月に出版され、今年度特に雨が多かったので、子どもたちの生活にはピッタリでした。

今回の絵本のあらすじは、

『雨つづきで外に遊びに行けず、積み木にも折り紙にも飽きてしまったあっちゃん。椅子や扇風機、傘など家にあるものを駆使して素晴らしいヘリコプターを作ります。あっちゃんが乗り込むと、ハンガーとおたまが操縦の道具に、目覚まし時計が計器に変身し、ヘリコプターは飛び立って、押し入れの洞窟、お風呂場の滝、洗濯物のジャングル・・・・と、家の中も大冒険の舞台になります』

と、子どもの豊かな想像の世界が物語の中に描かれています。

さて、今回の記事の本題です。

この絵本シリーズが環境となり、子どもたちから出てくるもの、

それは「対話」です。

このシリーズを読むと、必ずと言っていいほど、子どもたちから疑問が生まれ、話し合いが生まれます。

子どもたちが生み出すテーマは「これって夢?本当の話?」です。

大激論になり、決着がつかない時もあります。

ファンタジーなのか、本当に起こったことなのか、それはその子が決めることですが、子どもたちは「対話」が好きです。

このお話が夢だと思う子はその根拠を示していきます。

「お布団から出てきたんやから、寝ていたと思う」

「あんなに小さくなるのは、夢やから」

と自分の持っている知識や夢を見た体験からも伝えていきます。

すると、本当の話と思う子たちの反論が始まります。

「だって、絵本にかいている家の中が合ってるもの」

「全部、本物のものだから本当の話だよ」

など、絵本の絵を読み取りながら、本当にあった話としていきます。

そして、また夢だと思う人から、

「え、でも、これは家の中に無いんじゃないの!?」

と反論がかえってきます。

そして、激論は続いていきます。

さて、保育者は、この時に絵本をめくりながら、ファシリテーターの役割を果たすこともあれば、自分が意見を求められることもあります。

対等に対話しながらも、この物語をどう読み解くのか、それをどう言語化するのか、ひとりひとりの子どもたちの解釈を大事にしていきます。

そこには共感的関係があり、深い子どもたちの洞察があります。

森洋子さんの、このシリーズには、そんな「対話」を生み出す力があります。

子どもたちにとって身近な素材、少し不思議な絵、ファンタジーと現実を縦横無尽にかけまわる子どもたちのツボをついた世界観、派手すぎない色合い、生活に根差している舞台など、いろいろな要因があるでしょう。

表紙の雨粒を見上げる主人公のあっちゃんのファンタジーは、不思議なカタツムリと雨粒の波紋や雫のきらめきからすでに始まっているのかもしれません。

僕たち大人に子どもの世界をほんの少し教えてくれる希少な絵本だと思います。

こどものとも 2021年6月号『あめのひのぼうけん』
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執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。