堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

こころが動く絵本の魅力10

劇に向かって


今回は、お話と深いかかわりのある劇の発表会について、考えてみたいと思います。

園によって取り組み方はさまざまですが、保育者のみなさんにとって、悩ましく、忙しい日々を送ることになる点は、共通しているでしょう。

遊びを中心とする園では、日々の遊びのエッセンスを劇に盛り込んでいくことが常識です。何をエッセンスとして、それをどんなふうにお話に盛り込んでいくのかがキーポイントですが、ただ、それらを繋げていくだけでは訳が分からなくなるので、お話の力を借りることが多いでしょう。

以前、この連載で『三びきのやぎのがらがらどん』の劇のお話を書きました。

マーシャ・ブラウン え/せた ていじ やく
福音館書店

橋を渡るのは、小さなやぎではなく、ごっこ遊びで楽しんでいた「やきいも屋さん」でした。子どもが悪役のトロルをやりましたので、ちょっとは花がないと、ということで、園長がトロルに食べられるシーンが入ったこともご紹介したと思います。

これから、2月末の生活発表会に向かって走っていく若草幼稚園。

ただいま、お話の骨組みを考えているところです。若草幼稚園の劇は、普段の生活や遊びの中からテーマを発見し、子どもたちと一緒に作り上げていくことを意識しています。お話作りでは、子どもたちの様子にピッタリ合いそうな絵本を先生が選んでアレンジしたり、好きな絵本から遊びが広がり、劇へとつながっていくこともあります。

日々の遊びとお話をどんなふうに構成して劇にしていくのか、その具体的な様子をご紹介したいと思います。

3歳児のあるクラス


このクラスでは、『ともだちほしいなオオカミくん』のお話を、劇の骨組みにしようと考えました。このお話を選んだ背景には、見た目で人を判断するのではなく、ちゃんと中身を知って判断してほしいという先生の願いがあります。

また、オオカミのイメージは、「オオカミさん今何時」の鬼遊びを楽しんでいるので親しみをもっており、このお話の流れに日々の遊びを盛り込んでいけることも、理由としてあります。

登場人物は、日々のごっこ遊びから、おもちやさん、ダンスの好きなサーカス、(廃材やさまざまな素材を使って)作る人です。オオカミくんは、みんなと一緒に遊びたいだけなのに、すっかり怖がられているばかり。そんなオオカミくんが森の火事を消して大活躍し、お友達ができる話になりました。

3歳児の別のクラス


このクラスでは、最初お話が見つかっておらず、ネコごっことお医者さんごっこと紙飛行機を飛ばして楽しんでいる姿を生かしたいとのことでした。

「ネコとお医者さんと紙飛行機がつながるお話って、ありますかね~。
 みなさん、どうですか。」

と、職員会議。

うーん。

と考える先生たち。

するとある先生が、
「飛行機にお手紙を書いて、飛ばして知らせるって言うのは・・・。」

うーむ。
届かせたいところに届きそうもない雰囲気が目に浮かぶ。
3歳児は、どんなふうに紙飛行機を飛ばすのであろうか。

「例えば、〇〇ちゃん、血が出てますってお手紙書いて、
 いつまでたってもお医者さんに届かんという・・・。
 その道端に落ちたお手紙の紙飛行機をねこが拾って届けるとかね。」

と好き勝手に話はひろがるが、

「そもそも、生活発表会まで、紙飛行機ってつづくの?」

もう、遊びの盛り上がりは終わってるんじゃない?あと3か月もあるし、と疑問を呈するも、「いや、どんどん人数が増えて行って、ものすごく盛り上がってます。」とのこと。

「そいじゃあ、紙飛行機の技能も上がって、ばしっとお医者さんに届けられる飛ばし方をするかもね。」

といいながら、そうはならんだろうなと思いながら、とりあえず何か合うお話がないか、検討することになりました。

ますだ ゆうこ ぶん/あべ 弘士 え 
そうえん社

その結果、「ネコのおいしゃさん」で行こうということになりました。創作のシナリオも考えてみたのですが、3歳児には難しそうでした。

このお話だと、お医者さんのイメージを中心に単純なやりとりでお話を進めていくことができ、いろんな登場人物を盛り込めそうです。治療の仕方も「にゃーっ!」という気合なので、ヒットしたらおもしろそう!とのことでした。

4歳児のあるクラス


このクラスでは、『ブレーメンのおんがくたい』を骨格にした劇に取り組むことになりました。

ハンス フィッシャー え/せた ていじ やく 
福音館書店

日頃の警察ごっこのやりとりを大切にしたかったこと、そこに、敵っぽいイメージの子が入り込めやすいお話であることが、選んだ理由です。

また、いつも先生を待ち伏せしたり、おどかしっこが大好きな子どもたちで、とてもよく息が合っているので、ピッタリと思ったそうです。

登場するのは、盗賊と弱い警察とプリンセスとネコです。このクラスでは、ごっこ遊びで「弱い警察」を楽しむ子たちがいて、いつも銀行強盗や盗賊に一発で負けています。その倒れ方は、まるでお笑い芸人のようにキレがあります。

先生が悩んでいるのは、日々ごっこ遊びで楽しんでいるお医者さんの役を入れるかどうか。入れるとお話が複雑になり、分かりやすさが失われます。

しかし、ある男の子(Aくん)の気持ちを考えて、どうしようと迷っているようでした。Aくんが日頃楽しんでいるのは、お医者さんとネコのイメージです。

かわいいイメージが好きなAくんが、本当にやりたいのはネコをはずと、先生。

しかし、女の子のイメージに交じるのが恥ずかしくて二の足を踏んでおり、日々のごっこ遊びでも、飼い主になることで自分を納得させているとのこと。

ネコだって、かわいくて、美しいオスがいますよね。彼が自然にネコを選べる方法はないものかと、もう少し考えてみることにしました。

5歳児のあるクラス


このクラスでは、『じごくのそうべえ』が劇の骨格になりました。

たじまゆきひこ 作 
童心社

主役の子どもたちが、さまざまな地獄に挑戦して、そこで地獄の巻き物をゲットしていくというお話。

子どもたちにどんな地獄がいいか投げかけてみると、なんと19もの地獄が出てきたそうです。

やる気満々ですね。

コマ地獄とかドッジボール地獄とかフニフニ地獄とか。

劇の場合、空間や時間が限られているし、何より、見てもらうものだから、できることも限られてくるでしょう。そのようなことを子どもたちに投げかけて、自分たちで選んでいったらいいかもしれませんね。ということになったのですが、話によると、コマ地獄などは、できなくても頑張ったということで、巻物はゲットできることにしたいと担任の先生。

日々、子どもたちに寄り添っているからこその言葉だろうと思いつつ、

「そりゃ、だめでしょう。」
と突っ込みます。
「地獄なんだから、ここは~。天国のそうべえにしたら?」
「でも、頑張って練習して、本番回らないで、もらえないっていうのも・・・。」

確かに。

「それじゃ、コマはできないけど、鬼ができない技ができますとかどう?
鬼は、背中が固い設定で、ブリッジができますとか言って、巻物をもらうとか。」

などと、アイディアが広がったりしますが、そうじて、ドラマがない気がする。ものすごく地獄が難しいとか、地獄をクリアした先で事件が起こるとか、何か、大きなドラマがないと劇にならないかもね、というところで、もう少し考えてみることになりました。

5歳児の別のクラス


このクラスは、『さんまいのおふだ』のお話が大好き。

水沢 謙一 再話/梶山 俊夫 画 
福音館書店

先生が、遊びの環境として、お札の紙だけを出してみました。

すると、そのお札の紙に何か書いて、それを先生や友だちのおでこに貼って、魔法をかけるやりとりが大流行りしました。

例えば、「鍵盤ハーモニカになれ!」と言われた先生。うつぶせになって寝転ぶと、子どもたちが弾くふりをします。

一番多かったのは、「ふっとべ!」というもので、言われたら吹っ飛ぶというやりとりを何度も楽しんだそうです。

そこに、お手紙ごっこから発展した郵便屋さんごっこのイメージを添えたくて、『ぽととんもりのゆうびんきょく』をエッセンスとして借りました。

お札のなる木からお札をもらう、という子どもの思いつきが生かされ、短気なやまんばと郵便屋さんがやりとりした末、本当はお手紙を書きたかったやまんばが、郵便屋さんにお手紙を書くというお話になりました。

杉本深由崎 さく/白石久美子 え 
「こどものとも」2005年11月号 福音館書店

この他、4歳児のもう一つのクラスでは、『ころころパンケーキ』と『のっぺらぼう』を題材にして、お餅屋さんから盗まれたおもちを、ダンサーと警察があれこれした末、のっぺらぼうになって驚かして取り返す、というお話ができました。

12月に、PTAさん主催でおもちつきの体験をプレゼントしてもらったので、多くのクラスで餅つきごっこが流行っており、そのイメージが劇にも盛り込まれているようです。
2歳児さんは、これまでずっと積み重ねてきた虫とのかかわりを、運動会という場面設定で、物語にしています。


日々の遊びや体験から子どもと一緒に劇を作り上げていくことは、わくわくしますが、どきどきもします。

子どものその気を支えていくのは、なかなか難しいものです。

2歳児や3歳児には、劇自体が分かりやすいことと、いかに飽きないで本番を迎えられるかが大事ですし、4歳、5歳になると、全体がわかることと自分たちの思いつきやこだわりを大事にして誇りをもつことが大切です。

こんなところの先生たちの試行錯誤については、次回にお伝えしたいと思います。

ここでは最後に、子どもたちに劇の取り組みを投げかけていく前段階のお話づくりの配慮点について、いくつか考えてみたいと思います。

  • 子どもが楽しんでいることから、舞台という限られた時空間でできそうなイメージややりとりを見つける。
  • それらのイメージややりとりを盛り込むことができ、なおかつ起承転結が子どもに理解できるお話をつくる(すでにあるお話の力を借りると、ドラマが作りやすい)
  • 決められたことを決められたとおりにやるために練習するのではなく、役のやりとり自体を楽しめるお話にする。(例えば「だるまさんが転んだ」のようなやりとりや言葉の掛け合いを楽しむ。)
  • それぞれの役の見せ場に偏りがないように、場面をつくる。

いったん作ったお話は仮説に過ぎず、子どもたちの興味関心、ノリの方向性を見極めながら、さまざまな変更、調整と共に進んで行きます。

どこに向かっているのか、間に合うのか、何がどうなっているのか暗中模索の時期もありますが、この取り組みを通して、子どもたちが先生と共に自分たちだけの世界を作り上げていく充実感は、とても深いものです。

新しいクラスになったとき、「先生、発表会、何やるの?」と聞いてくる子もいたりします。

是非、子どもの興味関心を盛り込む、遊びの要素と気分が真剣にある劇というものに挑戦してみてほしいと思います。

次回は先生たちが悩みに悩んで子どもたちと創り上げた劇、その発表の様子をお届けしたいと思います。

写真のひろば(撮影:篠木眞)


「なりきる」


「おひめさま」
「これは一体・・・?」

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018