堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

こころが動く絵本の魅力11

劇のその後①


一年の最後を、締めくくる生活発表会。

今年も、若草幼稚園では、共立女子大学の田代幸代先生にご指導いただくことができ、なんとか無事、成功を収めることができました。

普段の生活のなかで楽しんだ遊びと親しんだ絵本をモチーフにしていることもあって、子どもたちは生き生きと舞台に立ち、あるいは恥ずかしさを乗り越え、達成感、充実感いっぱいの様子でした。保護者の方の温かい手拍子と拍手が、本当にありがたかったです。

この過程では、やはり、真っ青になることがたくさんありました。「できるんだろうか・・・。」と心の底から不安になった先生もいたと思います。

しかし、最後まであきらめない気持ちが、子どもたちを大舞台へと導いていきました。思えば笑える真っ青の数々をご報告したいと思います。


3歳児のあるクラスは、「ねこのお医者さん」がテーマになりました。エンディングの歌が、「ペンギンマークの百貨店」の替え歌で、劇そのものの内容になっていたので、子どもたちは、歌いながら劇の展開を覚えることができました。

まず、ネコのお医者さんのところに、ドロボウにパワーを取られて、力の出ないねこちゃんがやってきます。そこでお医者さんが「ニャーッ」と治すと、ネコちゃんは、元気になって得意のジャンプを披露します。

次にやってきたのは、元気の出ないダンサーです。例えば、こんなふうに元気がありません。

そこでダンサーも、お医者さんに治してもらって、

得意のダンスを披露します。

次にやってきたのは、けがをしたヒーローたちです。最近は、豊富なメディア番組と共にヒーローがたくさんおりますので、ドラゴン、仮面ライダーセイバー、ウルトラマン、スパイダーマン、プリキュアと様々です。ヒーローですので、ドロボウにパワーは取られませんでしたが、負傷してしまい、病院にやって来ます。

そこで、お医者さんは、日頃ごっこ遊びで楽しんでいる様々な治療を施します。軽症のようでしたが、何かあってはいけませんので(日頃のごっこ遊びで楽しんでいることを披露しますので)、聴診器で診察いたしますし、注射も打ちますし、絆創膏を貼って、薬も出します。

 元気になった、ヒーローたち。そこへ、パワードロボウの登場です。「おまえたち!元気になってるじゃないか~。」というわけで、ヒーローたちと順番に戦っていきます。

ドラゴンは、炎の攻撃と水の攻撃とくるくる攻撃、赤マントヒーローはけさ切り、ウルトラマンはビーム攻撃、スパイダーマンは、クモの巣攻撃、プリキュアはステッキで攻撃です。はっきり言って、「それはヒーローか?」という具合にか弱い攻撃もあったのですが、吹っ飛びまくり、痛がりまくるパワードロボウ・・・。

さすが、先生。

テキスト ボックスそういうわけで、パワードロボウは、「わかったよ~、お前たちのパワーを返してやるよ~。」とパワーの玉をばらまいて去ります。そこで、パワーを集めるべく、玉入れが始まります。

来年の運動会を見越したこの動き。非常にすばらしい。

練習中に、あることに気づき、突っ込んでみました。

「ね~ね~、なんで、パワーの色が赤と白なの?」

すると、Sくんがこう言いました。

「玉入れの玉やき。」

よくわかってるじゃないか。

そういうわけで、話し合いの末、パワーは赤だけになりました。こうして、パワーを取り返し、みんなはもっと元気になることができました。

この劇の過程で、何とも問題になったのは、お医者さんのパワーがない、ということでした。

「にゃぁ~・・・・。」

こんな小さな声では、治らんだろう。遊びでは、気合満々なのですが、舞台に立つとどうも・・・。そのうち、他の役がやりたくなるという3歳児らしい姿が出てきて、ヒーローをやりたい、ネコちゃんをやりたいと言い出したのが、本番前日、でもやりたいが何より大切です。急遽、ネコちゃんの耳としっぽを自分で装飾し、それからヒーローのマントを自分で装飾し、武器を作り、無事、本場を迎えました。

保護者の方に種明かしをすると、まったく気づかなかった様子です。子どもの意欲に添うことが一番と言うことがよくわかった出来事でした。子どもは、やりたい!と思ったものは、注意深く見ているし、意欲のままに元気に身体が動くというわけでした。残ったお医者さんも、本番は、「ニャーッ」と気合を入れて、治療を楽しみました。日頃の遊びを劇に生かしているからこそ、できることなのではないかと思います。


年中組のあるクラスは、「ブレーメンの音楽隊」がモチーフです。物語は、ドロボウがお城で開かれるパーティの招待状を盗むことから始まります。招待状を盗まれたプリンセスは、お城のネコちゃんに、招待状を探すように頼みます。

遊んでいるネコちゃんに、
プリンセスからの依頼が…。

そして、招待状を発見したネコちゃんたちは、プリンセスに知らせ、プリンセスは警察へ。意気揚々とやってきた警察ですが、戦いの末、ドロボウは逃げてしまいます。

日頃のごっこ遊びで「弱い警察」を楽しんでいた子どもたちですが、舞台では、(保育者の子ども理解によるねがいを込めて)対等に戦ってもらおうじゃないか、ということになり、危うく取り逃がすという展開になりました。

しかし、ドロボウはパーティに出たいのだから、またお城にやってくるに違いないという設定にし、みんなでドロボウを待ち構えます。

そこで、問題になったのが、驚かせる方法でした。もう一つのクラスと、いろいろと展開が似ているだけに、個性を出したいという思いがあります。そこで、紆余曲折の結果、講師の先生のアドバイスもあり、プロジェクターで影をつくって驚かすことにしました。まさしく、ブレーメンの音楽隊です。

さて、新しい最強の機具の登場で、子どもたちも大興奮。すると、当然のことながらドロボウ役の子どもたちも、それがやりたくなります。そこで、遊びの中で存分に楽しんでもらい、だけど、劇ではドロボウやってね、と持って行くことにしました。本番5日前のことですが、十分時間はあります。そして、練習をやってみたこのクラス。

ドロボウが驚いてくれない・・・・。

そこで、こうお話ししてみました。

「ドロボウさ、もうすでに、誰が影になっているのか分かっているわけだから、驚けないのは分かるよ。だけどさ、驚かないと、劇にならないのよ。だから、驚いてよ、わざと、派手に。どうやったら、驚いて怖がってるように見える?ちょっと、みんなで考えてみてや。」

そして、次の時、元気よく驚いているのですが、影の真ん前で騒ぐという展開に。

「いやいや、真ん前で驚いてたらさ~、見えんやん、影が。もうちょっと、端っこで驚いてくれん?」

というと、

「そしたら、ぼくらが見えんやん。」と。

そんな意欲があったんですか。

「なるほど、わかった。ほんならいいわ。そいじゃ、下で寝っ転がるとかして驚いてや。」

ということになりました。

本番は、ネコちゃん、プリンセス、警察が、順番に陰で驚かし、

最後は、みんなで驚かして、なかなかの名演技。

ドロボウは、招待状を返し、パーティに出たかったという気持ちを伝え、一休さん拭きで掃除をして準備を手伝い、舞踏会に参加できることになりました。 

それぞれが、それぞれの役を楽しむ姿は、本当にすてきでした。 


年中のもう一つのクラスでは、「おだんごぱん」をお話の骨格にして取り組みました。

PTA主催のおもちつきが、子どもたちにとって、とても印象に残っていましたので、「おだんごぱん」は、「おいしいもち」になり、勝手に逃げだすのではなく、ドロボウが盗んだことになりました。

(警察に電話するおもちやさん)

おいしいおもちを盗んだドロボウは、お餅さん屋さんから逃げ、練習していたダンサーたちから逃げ、別の捜査をしていた警察からも逃げていきます。最後は、のっぺらぼうになった皆さんに驚かされて、つかまります。おもちが食べたかったドロボウは、重たい米袋を運んでお手伝いし、無事、餅が食べられることになりました。

さて、ドロボウ役のことです。ドロボウらしい動きを出すために、登場シーンでは、いつも「ぬきあし、さしあし、しのびあし」と言いながら出てくることになりました。そこで子どもたちが、最後にピッとポーズを取りたいと言い出したそうです。それが、どう見てもヒーロー系のポーズという・・・。端で見ていた私が、「それさぁ、どう見ても、どろぼうに見えんやん。ちょっと、こう、さぁ。どろぼうっぽいやつにせん?」と提案して、身を縮めるようなポーズをやって見せたのですが、やってみると毎度のことヒーローになる子どもたち・・・。「まぁええか。いいでしょうよ。かっこいいかっこいい。」ということで、ドロボウ役だけれども、メンタルはどこまでもヒーローというドロボウが生れました。

このポーズは、他の子どもたちにも大ウケでした。それで、毎回笑いが起こるものですから、最初は、本人たちもおもしろがって色々なポーズをしていたのですが、恥ずかしさが徐々にたまっていたのか、前日に、微かに危ない変化がありました。これ以上緊張が高くなると、恥ずかしさで、できなくなってしまいそうな表情です。

そこで本番では、保護者の方に、これこれこういう経緯で、大変このポーズにやりがいを感じてやってきたけれども、どうも一番最後で崩れかけているので、おそらく皆さんも子どもたちと同様にこのシーンを見たら、可愛さ余って笑ってしまうと思いますが、ここで大勢の大人に笑われると動けなくなってしまう可能性があります。そこで、皆さんには、是非笑いを我慢して頂いて、代わりに感嘆の声、例えば「おぉ~。」などをお願いしたいと思います。と、お話して臨みました。

そして、本番。ドロボウのヒーローポーズを見たとたん、保護者の皆さんがぐっと笑いをこらえて下さるのが分かりました。心では、「なるほど~。」と思っていたでしょう。

そして、「おぉ~。」と感嘆の声を挙げて下さったのです。ドロボウ役の子どもたちは、驚きと共に励まされ、やる気になり、なんか、いくつもポーズを変えて披露したのでした。保護者の方のおかげで、緊張が舞い上がることもなく、自分たちの役を楽しんだ子どもたちでした。

(つきたてのおもちのできあがり!)

こうして書いてみると、子どものやる気が一番で、それを支えることが保育者の役目と改めて思います。

次回は、年長さん2クラスの葛藤と創造の様子をご紹介したいと思います。

写真のひろば(撮影:篠木眞)


「畑の女の子」
「風に吹かれて」

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018