はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

はじめに


2022年がはじまりました。

保育現場では、今の子どもたちの生活に応えながら、すでに来年度のことに向けての準備が少しずつ始まる時期です。

さて、その中のひとつに新年度に向けた用品や月刊絵本の選出というものがあると思います。

それも、子どもたちの生活の一部になっていきますから、「何でも良い」というわけではありません。

私が所属する任天会では、子どもたちが「愛情に満たされて過ごせるように」という視点から、月刊絵本も選んでいきます。

また、要領や指針に書かれている、「絵本や物語などに親しみ、言葉に対する感覚を豊かにし、保育教諭等や友達と心を通わせる」という領域「言葉」のねらいを念頭に置いていきます。

そこで、全園、全年齢に選ぶのが「こどものとも」シリーズの月刊絵本です。

よくある幼児雑誌ではなく、保育の大前提のねらいを大切にして、絵本の歴史をひもといたときに、最も子どもたちとの心の通い合いを生み出してくれたのが、こどものともシリーズだからです。その実績と今までの子どもたちへのリスペクトから選んでいます。

さて、ここでは、2022年度の月刊絵本の4月号を私なりの視点で語れればと思います。あくまで私的視点となりますが、絵本のことを考える一助になれば幸いです。

こどものとも0.1.2.

まずは、0-2歳児向けの月刊絵本。こどものとも0.1.2.の4月号『はいはいするもの よっといで』です。ポイントは下記の3つです。

① リズムの心地よさから言葉と絵本に親しみを


赤ちゃんは言葉や人の語りかけにリズムがあることで喜ぶことはご存じだと思います。この絵本の特に後半部分を、ぜひ皆さんの感覚でリズムをつけて歌うように読んでみてください。赤ちゃんが思わず身体をゆらしたくなる言葉で構成されており心地よいです。

② 4月の月齢差へ対応するテーマ      


4月の0―2歳児クラスでは月齢差は大きい問題です。絵本の内容が子どもに分かるかどうかは、そのテーマも大事です。「はいはい」はクラスの多くの子どもたちに親しみがあり、1歳児ならば改めて遊びの中に取り入れやすく、0歳児であれば今の子どもたちに応えやすいテーマとなっています。

③ 保育者と実際にやってみることができる


「はいはい」がテーマの利点はここです。絵本を読みながら、読んだ後、絵本のように身体的な動きをつけることで、より言葉と身体とイメージがつながり、赤ちゃんの遊びを豊かにします。つまり、保育者から子どもへの普段への言葉がけの具体のひとつになり、リズムにのった声で絵本を再現し、絵本が保育を活性化してくれます。

えほんのいりぐち

次は2歳児向けの「えほんのいりぐち」4月号の『こんにちは』です。このシリーズは正直、説明不要の名作だらけです。保育現場には必ずあってほしい絵本ですが、家庭にはあまり無いようです。さて、そんな絵本を家庭にも届けたいですね。

① 言葉のやりとりを楽しむ


挨拶の絵本と見せかけているのが、この絵本の巧みなところです。挨拶を介して、言葉でやりとりをして楽しむことができる言語的コミュニケーションに期待が持てる内容が、この絵本です。2歳児の言語爆発の時期に必要な応答的な言葉のやりとりにぴったりな絵本です。

② 起承転結の理解への入り口に


2歳児ごろまでは、「いないいないばあ」のような、次のページをめくれば変化があるような、絵本を子どもたちは好む傾向があります。しかし、2歳児ごろから、物語に変化があることを喜び始めます。そうすると、言葉の豊かさが一気に増します。この絵本は、言葉ではなく絵で簡単な起承転結ができています。「こんにちは」だけの連続でなく、ママやパパとのやりとりの部分が転結の部分です。こういう変化が心地よくなる2歳児にぴったりです。

③ シリーズに親しみを


毎年、どの絵本をどれだけ読むかは保育者の悩みですが、月刊絵本でシリーズものが届くことで、それをきっかけに季節にあったものが読むことができます。このシリーズが「生活」にあった絵本の内容になっているので、ぜひ推奨できます。

こどものとも年少版

年少版は、私が一番楽しみにしているシリーズです。12冊が毎年、とにかく高水準の絵本だらけです。3歳児向けですが、4月号『わっかざり』のポイントは、「子どもの内面」に寄り添う絵本です

① 製作のための絵本ではないが、祝いへの感性のためのテーマ


折り紙で創る輪っかが、4月号なのかと勘違いされそうな絵本です。しかし、この絵本は物語絵本です。なので、制作がテーマの絵本ではなくあくまで4月の新入園児や進級を祝う気持ちを表すための絵本です。子どもたちだって、そういう節目にお祝いしてもらうことで、おめでたいことなんだと理解できますよね。

② 「幼児クラスになる集団への意識」&「わっか≓みんな」


この絵本の言葉には、つなげて、ありがとう、あげる、みんな、など集団を意識できる言葉がたくさんでてきます。3歳児は、ちょうど集団性が高まり、またお兄ちゃんお姉ちゃんクラスと子どもたちにも意識が芽生える時期です。そんな集団への意識を言葉によって生み出してくれます。つまり、仲間が増えるなどの言葉が意識になる優しい物語です。

こどものとも年中向き

年中向きは4歳児向けのファンタジー感の強い絵本が多いシリーズです。4月号は『でっかいさかなつり』。「友達」がキーワードの物語です。

① 気が合うことがテーマ


4歳児は保育者から脱却し、園生活を友だちとの関係性に支えられていく年齢です。その4月に必要な「気の合う友だち」のようなじいちゃんとの物語です。「これが好き」だよねと興味関心が合う友だちが、気が合うということです。そこから友情を育む子どもの姿です。

② 遊びを一緒にするというイメージの共有がしやすい


興味が同じで気が合うことで同じ遊びを共にする姿が増える子どもたち。そうやって友だちと喜び合うことは4歳児だからこその本格的な姿です。今回の気が合うテーマは「釣り」。同じ遊びを一緒にするというイメージを子どもたちと共有しやすい絵本です。

③ 小→大への変化から、共に楽しむという一体感を持ちやすい


子どもたちは、だんだん大きくなる、だんだん小さくなるというような物語に魅了されます。3びきのやぎのがらがらどん、おおきなかぶを読むと分かりますよね。4月の最初に集団性を増したい子どもたちも、大きさに変化があり、さらにファンタジーが大好きな子どもたちに合う、イメージの共有からクラス集団の一体感を持ちやすい絵本です。

こどものとも

年長5歳児向けのシリーズです。来年度はついに800号記念の絵本も出版されます。シンプルにすごいことです。ひとつのシリーズが800冊も出され続けたのですから。この月刊絵本シリーズから「ぐりとぐらシリーズ」「だるまちゃんシリーズ」『おおきなかぶ』『はじめてのおつかい』などの名作がどれだけ生まれ、どれだけの子どもたちが幸せになったことか。そんなこどものともシリーズの中の名作「ばばばあちゃんシリーズ」の新作です。

① 名作の新作。シリーズを通すエネルギー。


ばばばあちゃんシリーズ。日本でも最もシリーズ数の多い名作たちです。それはなぜなのか!?私は、「エネルギー」だと思います。しかも子どもたちの願いに寄り添ったエネルギーです。それは、まさに「あっけらかん」という楽観性です。乳幼児教育である保育の目標のひとつに子どもたちの「根拠のない自信」を育てるというものがあります。まさにそれです。楽観的に、子どもたちは、色々なことに取り組んでいきます。保育の最終学年の5歳児に最もふさわしい1冊といえるでしょう。

② 問題解決が年長の姿と重なる


根拠のない自信を持った5歳児が何をするかというと、主体的な問題解決です。5歳児の姿として、遊びにおける問題やトラブルの解決などを自分たちでしようとする姿勢があります。ばばばあちゃんの姿は、そんな5歳児の子どもたちには、自分たちがまるで物語にいるかのように共感できるのでしょう。年長の4月号にふさわしい絵本です。

こどものともセレクション

セレクションシリーズは、まさに日本の歴史に残る絵本たちです。この何十年の子どもたちの心を豊かにし続けてきた絵本が安価な月刊絵本で手に入るシリーズです。3-5歳児と子どもの状況に合わせて選択できます。あまり絵本に慣れていない子どもたちにとっても良い入り口です。家庭にこの名作たちが全部揃うのは絵本好きとしては嬉しいものです。

正直、読んでみれば分かるシリーズですが、4月号の『ちょっとだけ』のポイントです。保育というよりは、名作たちが長年読み継がれるのは、それを飛び越えた子どもの心に応えてきた絵本だからです。

① お兄ちゃん、お姉ちゃんになることの不安への寄り添い


年上になるって大変です。子どもはそういう気持ちに気づいてほしいものです。そして、ほんのちょっとの頑張りを持ってくれます。そういった、子ども心、複雑な心境を理解してくれる絵本です。心を豊かにするとは、こういうことなのだと思います。

② 絵の巧みさ ≓ 成長を描く


この絵本の絵はまさに子どもの成長や母の変化を表した絵として素晴らしいものがあります。ひとつだけ紹介するならば、最初に母とお買い物に行った時、母親は左手に荷物を持っています。一応、お姉ちゃんのほうの手もあけています。さて、裏表紙をご覧ください。お姉ちゃんが乳母車をひく中、母の荷物は右手にあります。これは、あなたに任せましたよというメッセージです。こういう細かやさが絵本には必要だと思います。名作が名作たる由縁です。

ちいさなかがくのとも

この月刊絵本が良いのは、年少版と同じく「わかりやすい」ことです。1年間を通して、季節の生活にあった絵本を読むことができます。さて、3歳児または4歳児におすすめのシリーズのちいさなかがくのともの4月号の『ふしぎなわっか』は、「観る遊び」の絵本です。

① 誰でもできる共同性


科学絵本の「遊び」の絵本で大事なことは、「やってみたくなること」です!そして、3歳児や4歳児両方に選ばれても4月号は「誰でもできる」が科学絵本として重要です。それは、クラスの最初の遊びの共同性の提供として必要なことです。最初は簡単な手遊びをみんなで楽しむのと同じです。どうか、絵本からの遊びをシンプルにやってみるのがおすすめです。

② お集まりなどで同じ遊びを感じる楽しさの体験


4月はどの学年でも保育者のアプローチが強い時期です。そうやって、保育者と子どもたちの関係性を培っていきます。このような科学絵本での提供があることで、楽しい関係を創る助けになります。また、わかりやすい絵本であることで集まりの場で集団で読むことで、みんなで楽しむことができます。

③ 子どもをほめるチャンス!


この遊びは誰もが個性を出すことができます。そして、何をのぞいても正解です。のぞいた先に不思議な顔を見つけても、ちょっとしたおふざけも良いでしょう。そういったひとりひとりの子どもの気づきを褒めて認めやすく関係性を創ることができるのも利点です!それを写真などで記録に残すことで、集団での他者の視点の共有がしやすいのも面白いところです。

かがくのとも

 4月号は『みずだらけ』。かがくのともは知識量の多い絵本シリーズです。年長向けとして「へ~~!」となる絵本シリーズです。この大人でも「へ~!」となる知識があることで「好奇心」までつながっていきます。世の中の色々な科学がつまった絵本たちです。

① 年長としての健康と安全への意識


健康や安全や安心は年長になると自らが創り出せるように育てていく必要があります特に身体の健康面は自分で水分補給をするなどは要領にも書かれていることです。そのためには「言葉」が必要です。自分で水分補給を意識するために思考する言葉の共有がクラスに必要となります。子どもたちに自立した過ごし方のための言葉がつまった科学絵本です。

② 自分で自分を感じる言葉と絵


年長になると「人体」に強烈に興味がわく時期です。骨、筋肉、脳みそなど、自分の内側にも興味がわいてきます。そうやって自分の身体の仕組みを知ることで、自分への興味がわく。自分への興味がわくことが、自分を振り返ることができる思考につながっていきます。それをコミカルな絵で楽しく伝えてくれます。

③ 読み方のすすめ


読み方は一気に読む必要はありません。こういう科学絵本は知識の伝達から好奇心を生み出すことが1つの楽しみ方です。なので、そのときに必要なページだけをまず読んで、子どもたちと対話しながら楽しむことが大事です。排泄自立のためには、排泄のページを水分補給では水分のページを読むのがおすすめです。少しずつ、全部が読めればそれで大丈夫。

おわりに


というように、一気に8冊紹介しましたが、こどものともシリーズは作者の方々と福音館の編集者が本気でつくりあげてきたものです。

それでも、この絵本たちはまだ完成していません。

絵本を完成させるのは、私たち保育者と子どもたちです。

絵本とは、誰かとシェアしたことで、はじめて完成するのです。

ですから、私たちの手で、この絵本たちを「この絵本いいな~。」という風に完成させていきたいのです。

素直に子どもたちと2022年も絵本を楽しみたいと思います。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。