はじめに
いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。
福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。
今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。
毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。
月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。
この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。
それではどうぞ、お楽しみください。
こどものともひろば 運営係
こどものとも 2018年11月号『ねこぶたニョッキのおつかい』
今回は子どもたちが自ら発表会の題材に選んだ絵本を紹介します。おそらく、2度とない経験かもしれませんが、選び方が驚かされるしかなかったのです。「こんな子どもたちいるんだな~」と思った瞬間です。
2月の生活発表会の時期に、保育者は必死で考えます。
今のこの子たちに合う物語は何なのか、力を合わせて喜んで表現できる絵本はあるのか?など、全国の保育者の方も悩むところです。
この時の保育者も、子どもたちのことがよくわかっている保育者だったので、必死で考えていました。
そんなある日、「これやりたい!」と急に子どもたちから言われたそうです。
その時に持ってきた絵本が、「ねこぶたニョッキのおつかい」でした。
保育室に置いてあった絵本を子どもたちが手に取り、もう少しで発表会だなという見通しを自分たちで持ち、普段の日常の遊びの中、自分たちで話し合い、自分たちで「俺、これやるわ」と役割まで決めて、保育者のところに持ってきたのです。
なんとも自発性の塊のような子どもたちです。
保育者は、今まで想定していたことが崩されましたが、驚きと共に嬉しそうに、僕のところに報告しにきました。
そこからはさらに必死です。子どもたちが選んだ題材のために、子どもたちと話し合い、発表会の準備を進めていきます。
子どもたちも自分たちで話し合ったものですから、意欲に満ち溢れていました。
自分たちで保育者不在の中で発表会のような大きい行事のための題材を選ぶようなことになるとは思いもよりませんでした。
子どもたちの中で「ねこぶたニョッキ」を選ぶことになった動機はなんなのだろうと、いつも考えます。
シンプルに好きというのもあるでしょうが、子どもたちは何を読み取っているのでしょう。
あらすじは、「ねこぶたニョッキは、わがままな師匠に言いつけられて、ホッペフワリンポヨヨーンパンを3つ買いに出かけました。行く手には不気味な化物が次々に襲ってきます。化物の正体を見破り、ニョッキはパンを守り切ることができるのか!?」というストーリーです。
物語や言葉は、パンの名前の通りにコミカルでユーモアあふれるものです。
また、なぞなぞのような面白さもストーリーに盛り込まれ、昔話のような要素もあります。
さらに、絵も、その物語に合うように動きが大胆にありながらも、細密な線で描かれています。キャラクターたちも見事に個性が際立っています。
正直、大人の価値観の中では、あまり評価されるような絵本ではないかもしれません。
ただし、子どもたちが自分を表現するために選び抜いた絵本です。
普段、子どもたちはなぞなぞで遊んでいました。
言葉遊びもよくしていました。
個性的でユーモアあふれるクラスでした。
笑い合えるような面白いことが好きでした。
コミカルな絵も言葉も好きでした。
保育者とクラスメイトとの楽しい日々と「ねこぶたニョッキ」そのものが持つ魅力が重なり合い、掛算になったのかもしれません。
こうやって、この子どもたちが選んだ、この子たちにとっての「良い絵本」はできあがるように思うのです。
子どもたちこそ絵本の真の選び手で読者だなと思った瞬間です。
選び抜く動機。今でも、その答えは、その時の子どもたちしか持っていないのかもしれません。
彼ら、彼女らが大きくなった時に選んだ理由を聞いてみたいものです。
こどものとも 2018年11月号『ねこぶたニョッキのおつかい』 (※現在、品切中)
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執筆者
松本崇史(まつもとたかし)
社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。
鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。
一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。
現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。
言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。