堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

こころが動く絵本の魅力

日々の保育と絵本


子どもたちと過ごす毎日に、欠かせない絵本。

今回は、本園の先生たちが日々の保育で読んだ絵本と子どもたちの様子をご紹介していきたいと思います。


  1. 気づきと絵本
  2. 挿絵と共に音を楽しむ
  3. 規範意識に語りかけてくれる絵本


1.気づきと絵本


2学期に入り、2歳さんが、にんじんを植えました。

そのとき読んだ紙芝居が、『にんじんわけてくださいな』(童心社・品切重版未定)です。

「にんじん」を真ん中に、単純なやりとりが繰り返されていくお話で、すっかり引き込まれた様子の2歳さんでした。

うさぎさんが、いろんな動物におすそわけして、パンやジャム、スープになって、うさぎさんに返ってきます。

先生が、「このねずみさんにもおすそわけできるくらい、たくさん取れるといいね。」とお話しすると、「うん、うん!」と収穫を楽しみにする2歳さんでした。

そして、ニンジンの芽が出てきたときに読んだのが、『ちいさいはたけ』(福音館書店「こどものとも年少版」2006年4月号・品切重版未定)です。

め でたね

め でたよ

の場面が、畑のにんじんと本当にそっくりだったので、子どもたちの目が、一斉に輝きました。

大きくなっていく葉っぱを見て、「にんじん!にんじん!」と、とても嬉しそうにする姿がありました。

5歳児では、大根を植えました。

その収穫を楽しみにして、『わたしのだいこん』(福音館書店「ちいさなかがくのとも」2019年11月号・品切重版未定)を読みました。

終始、主人公の「わたし」に感情移入する様子があったそうです。それだけ迫力のあるこの挿絵を見ながら、固唾をのんで聞く姿がありました。

途中、ミミズが出てきたころで、ふっと心が緩んで、また、「わたし」と一緒に、大根を抜く気持ちになり、表情までシンクロしていく子どもたち。

大根が抜ける喜びを、主人公「わたし」と共に味わった子どもたちでした。

抜けた大根の土付きのおひげにも着目し、「もっと、もっと、こーんなに大きな大根とる!」と両手を広げて盛り上がった子どもたちでした。

2.挿絵と共に音を楽しむ


本園では、11月末に学びの節目として作品展を開催します。

その日が、子どもたちにとって達成感あふれる日となるよう、各学年で一つのテーマを持ち、約8カ月ほどかけて作品づくりに取り組みます。

これをプロジェクト学習と言ったりしますが、作品にパワーをあたえるのは、体験が生む感動ですから、各学年、テーマを中心に様々な活動を取り入れていきます。

今年の3歳児さんが選んだテーマは、「触覚」でした。

色んなものに触れて、その感触を楽しもうというものです。

取り組みが進むにつれて、感じたことをオノマトペで表すことが盛り上がってきました。

例えば、森の中を歩いた日、柿の木の苔と木目の境目を触って「ゲロゲロ」、シダの枯れた部分を触って「ジワジワ」など、その子の感覚がダイレクトに伝わってくる言葉の数々が生れてきました。

そこを盛り上げようと、読んだ絵本が『ぐやん よやん』(福音館書店・品切重版未定)と『はっぱ はらっぱら はっぱっぱ』(福音館書店「ちいさなかがくのとも」2003年6月号・品切重版未定)です。

『ぐやん よやん』は、抽象的な挿絵にそんな「感じ」という音の言葉を乗せた絵本です。例えば、

「ほんにょろ ぶわー」はこんな挿絵です。

子どもたちは、挿絵の雰囲気とそこに乗せられた言葉(音)の雰囲気に心を動かし、怖がったり、ケタケタ笑ったり、いろんな感じを味わったようです。

最後のページには、音がありません。

先生が、「ここ、なんだろうね。」と聞いてみると、「ぼわぁぁぁ」と、なんともぼわぁぁぁっとした答えが返ってきたそうです。

こういった本のいいところは、子どもが自然に参加してくるところです。

「びーん」と言ったら、「びーん」と返し、「じんじ じんじ」と言えば、「じんじ じんじ」と返す、そうやって、先生と子どもと子どもが一つになって、その世界を共有すること、こんな素敵なことはありません。

そして、『はっぱ はらっぱら はっぱっぱ』。

題名を聞いただけで、すっかり楽しい気持ちになった子どもたち。

先生が読むのに続いて、子どもたちも自然とその言葉を繰り返し、笑いもたくさん起きました。

2歳児は、特に「しゅるるるるるるるるるるるるるるる・・・」が大好きになったようです。

2回目に読んだときは、子どもたちも待ち構えて一緒に読むことを楽しみました。

最後に出てきた「くちゃっぱら~」のくさい葉っぱ。

2歳児は、その挿絵をにおって「くさい~」と笑っていたそうですが、4歳児になると趣が違います。

「なんのはっぱやろう?」「お山にある。」「ドクダミ?」「明日、探してみよう。」となったそうです。さすが。

この並びでご紹介するのが、『おいしいおと』(福音館書店「ちいさなかがくのとも」2002年6月号、現在は「ふしぎなたねシリーズ」として刊行中)です。

食べる物の食感をオノマトペで表した絵本です。

例えば、みそしるは「ツススッ クン」、かぼちゃなら「モモッ、ポフ ポフ ポフ ポフ ポフ」、なんとも言えない食感と音の世界が広がります。

この絵本を読んだ後のお昼の時間は、食べるのが進まないくらい、子どもたちのオノマトペであふれたそうです。

カリカリ、ボリボリ、ジョリジョリから始まって、ご飯をボタボタと言ったり、コロコロ、ガチガチ、ピチピチ、ジリジワ、ムニャムニャと、自分の口の中に広がる感覚を捉え、食材そのものを楽しんだのでした。

3.規範意識に語りかけてくれる絵本


お休みの先生の代わりに2歳児クラスに入ったときのことです。お昼ご飯を食べていて、ふと残飯入れを見ると、お魚とご飯が捨てられていました。

かなりの量です。「あり?誰かこれ捨てた?」と先生たちに聞くも、誰も捨てていません。さては、誰か捨てたな。

しかし、見た人はいませんし、2歳児に問い詰めるということもしたくありません。

そこで『くずかごおばけ』(童心社)を読みました。

その1p目がまたちゃんと、魚を捨てるシーンと言う・・・。きらいだから、いらないからと、簡単に捨てたものがお化けになって、夢に出てくるというこのお話。全員が、静まり返って聞きました。

読んでいる私も、おそらくあの子であろうという子と目を何度も合わせたりして・・・。

お昼に、残飯入れに捨ててあったお魚とご飯のことを話し、「もう食べられないと思ったら、先生に相談してね。」とお話しして終わりました。というわけで、残飯入れに向ける先生の視線は、増えることでしょう。

その他、子どもたちの嘘をつくところが気になると思い「金の斧と銀の斧」(イソップ寓話)のお話をしたり、無駄遣いしている様子に『もったいないばあさん』(童心社)を読んでみたり、もっとほしいもっとほしいと欲をかく様子に、『くわずにょうぼう』(福音館書店)や『こめだしだいこく』(福音館書店「こどものとも」2018年1月号・品切重版未定)を読んだり、子どもたちと生活を共にする先生たちだからこそ、伝えたいことがたくさんあるようでした。

直接的な指導もとても大切ですが、絵本を通して、物事を客観的に捉える機会をつくり、そのお話の起承転結を通して規範意識に語りかけることも大切だと思います。

日々の保育を、豊かに彩ってくれる絵本たち。保育者の専門性を表す重要なアイテムであると言えそうです。

写真のひろば(撮影:篠木眞)


親友①

親友②

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018