はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

「宇宙まで飛ばしてみる!!」

― 子どもの遊びと生活と絵本 ―


集団生活のこども園で、絵本を読んでいて、心躍る時があります。

子どもの遊びと生活と絵本がピタッとはまる瞬間もその一つです。

もちろん家庭でも、同じようなことは起こりえるでしょう。

ただ、園で起こるその現象は子どもたちの集団のダイナミックさと相まって、より豊かな生活と遊びを生み出していきます。

そして、そこに子どもたちの育ちが産まれるのです。

今回は、『うちゅうえんそく』(こどものとも2024年6月号)を中心にご紹介したいと思います。

 『うちゅうえんそく』の物語は、子どもたちが大勢で遠足に出かけるところから始まります。

なんと行先は宇宙です!しかも、行き方は、なんと自分たちお手製のペットボトルロケットに乗って、ひとっとびです!

宇宙に出かけてからは、遊びもひと味違います!

無重力で宙返りの鬼ごっこ。星くずのかげでかくれんぼ。どこかで宇宙人が見ているかもしれません。

さて、この絵本から子どもたちは遊び出したのではありません。

本当にたまたま年長クラスの男の子たちが、ペットボトルや段ボールでロケットに興味を持ち、5月ごろに創り始めたのです。

そのクオリティは目をみはるものでした。最初は創る、デザインすることが遊びとして楽しかったのですが、そこから子どもたちは実際に飛ばしてみたいという願いを持つようになりました。

そして、羽根のデザインにこったり、メディアで仕入れた情報を持ってきたりするなど、飛ばしてみたいと思うようになりました。

しかし、このあたりで子どもたちの技量と知識では限界をむかえます。

そこで、本物のペットボトルロケットを砂場で飛ばす教材研究を保育者も考えました。

身近なもので再現できないかと、ゴム栓などを、わざわざ用意せずに園にもともとある素材でできないかと試行錯誤しました。

さて、保育者は、子どもの発想を具体化するのも仕事です。

子どもたちにも飛ぶかもしれないと試してみます。空気入れをシュコシュコすると、子どもたちが創ったペットボトルロケットが見事に飛び上がりました。こども園の屋根を超えていきました。

子どもたちは大盛り上がり、「俺も!僕も!」の大騒ぎです。

さらにペットボトルロケットを創るのに熱が入ります。水の量を調節するなど、空気圧と水圧のバランスを感じながらも、飛ばし続けます。

すると、ある男の子が、「宇宙まで飛ばしてみる!」と発言します。

そして、なんとその日の夕方に「うちゅうえんそく」の絵本が園に届いたのです。

この偶然という名の必然です。早速、次の日に読んでみました。

こどもたちは食い入るように聞き、見て、感じ、楽しんでいます。

「私らと一緒や!」と言いたげに、「いつもって帰れるの!?」と聞いてきます。月刊絵本の形を覚えているので、自分たちのものになると分かっているのです。

『うちゅうえんそく』と出会ったことで、それまで、その遊びに参加していなかったYu君も創りたいと創り始めました。加配認定を受けた子どもであまり高度だと自分が思う遊びには参加しない子です。

しかし、この絵本の物語とまわりの子どもたちの様子を見て、さらに絵本を見ながら、できるだけ、絵本に近い形のペットボトルロケットを創ろうとします。

2日間かけて作った、誰よりも長いペットボトルロケットは、見事飛び上がりました!!

このように、自然発生的に出現した遊びと絵本が時折混ざり合うことがあります。

そして、その物語絵本がきっかけで、より多くの子が巻き込まれていきます。

こういった現象を含めて、「絵本の読み合い」というのではないでしょうか。

読み手と聞き手の関係性を飛び越えて、子どもたち同士の中で、絵本の物語をさらに進化させるような出来事です。

もちろん、自分の家にも持って帰ることができる月刊絵本ですから、自分の絵本として親しみも倍増でしょう。子どもの遊びと絵本がつながった瞬間です。

今年度は、他にも月刊絵本「かがくのとも」の

  • 『くさぶえあそび』(かがくのとも2024年4月号)
  • 『カラスノエンドウの たねが とんだ』(かがくのとも2024年6月号)

は、子どもたちの生活と絵本がつながった科学絵本です。

草笛の存在すら知らない子どもたちが、やってみたいと地域の自然に触れて言い始めます。

散歩にも持っていきます。

はじめて音が出た時の喜びようはすごいものでした。

そこからは、どんな葉っぱがいいかなど自分たちで飽きるまで繰り返す子もいます。

からすのえんどうも、散歩の中で、黒いさやと豆を見つけた子どもたちが、「園長、豆があったよ!」と伝えてきます。

スナップエンドウやそら豆を育てた経験から、さやを見ると、豆と分かっています。パチッと音がなり、豆が飛ぶ様子がなんとも面白いようです。

月刊絵本は、季節に合わせたものが届くことが多々あります。

また、福音館書店の「こどものとも」シリーズは、見栄えではなく、堅実で真実的な世の中の物事に視点をあててくれています。

それは、子どもたちの現実の生活に、とても近いものであり、どんな街中の園でも、少し足をのばせば、そこにある豊かな環境かもしれません。

もし、まだそこに何があるか分からないという方は、月刊絵本をきっかけに、子どもたちと共に飛び込んでみるのも一つの方法です。

子どもたちの豊かな生活と遊びに絵本がピタッとはまる、心躍る瞬間を目の当たりにするかもしれません。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。