はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

年少版こどものとも 2005年1月号『ねこガム』


今回は、月刊絵本出身で、現在はハードカバーになっている絵本を紹介します。

『ねこガム』(きむら よしお 作)です。

月刊絵本「こどものとも年少版」2005年1月号
幼児絵本シリーズ 2009年3月刊行

ハードカバーになったということは、今回のような事例だけでなく、保育現場で子どもたちが大いに喜んだという事実があるからです。

最初に、この絵本に自分自身が出会ったときは、どう捉えて良いのか分からないという、大人の感覚になったことを今でも覚えています。

まず、あらすじを言語化したところで、

男の子がガムを噛んでいます。そして、案の定プープーふくらませはじめましたよ。風船はどんどんどんどん大きくなって。なにやら顔のようなものが?なにやら耳のようなものが?ヒゲのようなものが?ネコの顔になってる!  しかも、今度はそのネコが男の子を吸い込んじゃった! 一体どうなる?

というように、ナンセンス絵本と言えばナンセンス絵本の分類に入るのでしょう。

さて、こんな『ねこガム』に自分のセンスをフルに活かした5歳児の子があらわれました。

この4月の出来事です。

『ねこガム』の1ページ1ページを粘土や保育室にあるものを使って再現化しました。

2次元を彫刻化し、自分の想像力をいかした姿を見せてくれました。

正直、写真を見ていただければ分かるとおり、特に何か説明する必要がないぐらいの大作だと思います。

大人でもなかなかできるものではありません。

ここでは、この遊びが生まれた要因を少しだけお伝えしたいと思います。


ひとつは「環境」です。

新しい保育室と新しい担任になることが多い4月には、保育室の環境は「一目見ればここでこう遊べる」という環境を一部に用意します。

粘土などは、その代表的な伝統的な教材です。

触ることで、すぐに変化し、自分のイメージを具体化しやすい利点があります。

ふたつめは『ねこガム』という絵本の特性です。

この奇想天外な物語は、私たち大人にはどう解釈して良いか分からなくなる分、子どもたちがこう読むのだよと教えてくれます。

それこそ、十人十色の世界であり、一人一人の多様性を受け止めてくれます。

なので、子どもが何をしたいかが逆に大人には分かりやすくなるという、逆説が起こります。

意味の中だけにとらわれず、自分の想像力を使いながら、自由に羽ばたき遊ぶことができる子どもたちには、まさにコミュニケーションや表現を引き出してくれるものとして、こんな奇妙きてれつな絵本は宝物なのでしょう。

この5歳児が、何気なく環境の中から選び、触り、遊んでいたところに、”ねこガム”に似た形を生み出し、保育者とのやりとりの中でイメージを明確化し、絵本の表現を頼りに、一人で作り上げた表現に脱帽します。

よーく見ると、絵本の背景の線や絵の変遷なども非常に巧みに表現しています。

月刊絵本には、時にこういった大人の枠からはみ出た絵本が刊行されることがあります。

それは、出版社や絵本作家のチャレンジでもあります。

「子どもたちはどう楽しむだろう?」というチャレンジです。

月刊絵本の利点は、ここにあります。

自分だけでは到底理解できない絵本を手に取り、子どもたちと楽しむことができ、子どもたちの反応を知ることができます。

保育者も、そうやって様々な絵本に出会いながら、新たな子どもたちの姿を発見していくのだと思います。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。