堂本真実子先生の「こころが動く絵本の魅力」>

こころが動く絵本の魅力12

劇のその後


最終回は、劇の本番に向かう年長さんの取り組みについて、ご紹介したいと思います。


あるクラスのモチーフは、『さんまいのおふだ』と『ぽととんもりのゆうびんきょく』でした。

『さんまいのおふだ』のお話が好きで、おふだごっこを楽しんでいたこと、そして、年中さんとの手紙のやり取りに発展した郵便屋さんごっこを楽しんでいたことからお話作りが始まりました。

劇の発表で大切なことは、一人ひとりが自己発揮することを通して、輝くことです。そのためには、それぞれの見せ場が必要です。

そこで、ただの郵便屋さんではなく、ダンスが得意な郵便屋さん、太鼓が得意な郵便屋さん、マジックが得意な郵便屋さんが生まれました。それぞれが、登場シーンで得意なことを披露するのですが・・・。

これを見ていた、隣のクラスの男の子が、こういいました。

「郵便屋さんって、こんなことする暇あるのかね。」

たしかに・・・。

「ダンスの得意な郵便屋さんがやってきました。」というナレーションで登場する彼女たちは、勤務中なのでしょうか、そうでないのでしょうか。これは、太鼓の得意な郵便屋さんにしても、マジックが得意な郵便屋さんにしても同様です。

そこで子どもたちに問いかけてみたところ、同じく疑問に思ったようです。

子どもたちで先生を交えて話し合った結果、ダンスの郵便屋さんは、「休憩になったから、ダンスの練習をしよう!」ということになり、太鼓の郵便屋さんは、「お祭りの練習をしよう。」ということになり、マジックの郵便屋さんは、「お花見パーティの出し物の練習をしよう。」ということになりました。

本番3日前の話でしたが、子どもにとって、理屈が通ることが何より大切のようで、あっという間に、きれいに変更されていました。

 もう一つの難題は、郵便屋さんがお手紙を届ける役をしておらず、むしろ手紙を書いているということでした。

子どもたちが考えたお話は、手紙がほしいやまんばがいて、郵便局に自分宛ての手紙がないかどうか尋ねに行くところから始まります。

郵便屋さんに、「ないです!」とばっさり言われたことに腹を立て、やまんばが郵便屋さんを追いかけ始めます。

そこへお札のなる木が出てきて、郵便屋さんは、木から三枚のお札をもらって逃げていきます。

<お札のなる木>

まずは、大山が出てきて、それから、大河が出てきて、最後は、節分で使った柊が出てきて、チクチク攻撃でやまんばを泣かせます。やまんばが、手紙がほしかっただけだというので、郵便屋さんが書くことになっていました。

他に登場人物がいなかったからでしょう。結局、はじめの設定ですと、郵便屋さんは仕事をさぼっていただけでなく、仕事自体していないということになってしまっていたのです。

講師の先生の鋭いご指摘に目が覚める若草幼稚園。

そこで、急遽大道具係をしていた男の子たちに、隣に住む鬼になってもらうことになりました。私は心の中で、隣に住んでいるなら、お手紙書かなくていいんじゃないかと思ったのですが、鬼の家は、きっと隣と言ってもとても遠いのでしょう。

このクラスでは、若草幼稚園で初の大道具係というのが生れ、木になったり、山や川などの大道具を動かしたりしていました。仕事が終わると、「準備完了!」と言って敬礼します。きっと、最初は、何かの役になることが恥ずかしかったのかもしれません。しかし、いざとなったら鬼役を快く引き受けてくれました。

<お手紙を待つやまんば>

こうして、郵便屋さんは、本来の仕事をして、やまんばの望みを叶えることができました。物語の筋が通ることって、とても大切なのだと痛感した出来事でした。


もう一つの年長組のクラスでは、『じごくのそうべえ』がモチーフでした。

本当のお話では、そうべえが軽々と地獄を乗り越えていくのですが、子どもたちが決めた〇〇地獄は、それを得意とする子どもが担当しますので、その子どもたちが輝くためには、挑戦する側が、それを上回ってはいけないという事情がありました。しかし、通過もしなくてはなりません。そこで、「だまくらかす」という方法が取られることになりました。

このお話は、町に鬼が出てきて困っている子どもたちが、ひょんなことから地獄に落ち、そこでさまざまな地獄をクリアして通行証を手に入れて、町に戻るというお話です。

<イントロは、ペープサートで>

通行証を手に入れるためには、地獄をクリアして箱を開ける三つの鍵をゲットしなければなりません。最初はコマ地獄です。ここでは、手乗せゴマや綱渡りが披露されました。挑戦者は、「できないよう」と頭を抱えるふりをし、持っていたドーナツを食べませんかと誘います。そして後ろから、「ね~むれ~。ね~むれ~。」とおまじないをかけ、眠らせたすきに鍵を盗みました。

次は、ダンス地獄です。鬼たちのすてきなダンスを真似できない子どもたち。

へんてこりんな踊りをしながら、鬼のまわりをグルグル回り、目を回らせて鍵をゲットしました。最後は、なぞなぞ地獄です。これは、正当に応えてゲットしました。

こうして、子どもたちは、3つそろった鍵を持って、閻魔大王のところへ行きます。そして、閻魔大王が言うことに、

「よく来たな。」

「よく来た」のだろうか?だまくらかして取ったことをほめているのか、それとも地獄では、報告、連絡、相談がなってないのか。これは、ストーリとして違和感があります。

そこで、「だました2つの鍵は、返してもらおう。」という展開に修正しました。そして、代わりに何か別のことをしないと、鍵がゲットできないということになり、このクラスが好きな筋トレをすることになりました。手押し車10回、V字腹筋10秒、腕立て伏せ10回、スクワット30回です。ここで、閻魔大王らしさが発揮されました。

完璧なデモンストレーションの後で、

と鬼教官となり、子どもたちに新たな難題を与えます。練習の時は、おもしろすぎて腹を抱えて笑った私でしたが、そのうち調子に乗りすぎて、「ケツを・・・」などと言いだしたので、「こらこらこらこら、それはいかん!」と幼稚園として許される範囲にとどめることにも腐心した次第でした。

こうして、ストーリーにおける不具合を調整し、それなりに腑に落ちるストーリー展開へと持って行くことができたのでした。

腑に落ちることの大切さは、子どもの修正のすばやさにあらわれました。

あっという間に、新しいセリフを覚え、役をこなしていましたし、お休みしていて変更点を練習できなかった子も、前日の電話連絡と当日の打ち合わせだけで、見事それを感じさせない姿を見せていました。

ここでも、子どもの意欲から劇を生み出すこと、そして、腑に落ちることが大切なのだと痛感しました。

また、田代先生のご指導のなかで、物見立て、場所見立て、ふり見立てというごっこ遊びにおける3つの見立てで、イメージの充実を図ることの大切さもわかりました。

例えば、地獄のダンサーたちは、最初手ぶらで踊っていたのですが、

アドバイスのおかげで、こんなふうに地獄らしさを演出しながら華やかなダンスを見せることができました。

気分の高揚したダンサーたち。知恵熱が出るほど自主練をしていました。また、閻魔大王も、最初手ぶらだったのですが、それらしい杓を持つことで、一気に威厳が増しました。

なぞなぞも、最初、なぞなぞ絵本から抜粋していたのですが、どうも、出す方も出される方も、そのなぞなぞを理解していなかったようです。そうすると、問題を出す意欲が生まれません。どことなく覇気のない姿の原因は、そこにあったようです。そこで、自分たちの経験を生かして、1から考え直し、視覚的なヒントも用いることで、みんなが分かる問題を作りました。

<運動会で親しんだ国旗から>


 


ご指導を受けて、修正する過程で学んだことは、次のようなことです。

  • ごっこ遊びにおける子どもの「役らしさ」の試行錯誤を、日頃から読み取り、支えること
  • 「役らしさ」にやりがいやおもしろさを子どもたちが感じられること
  • ごっこ遊びにおける三つの見立て、すなわち “物見立て”・”場所見立て”・”ふり見立て”【注】の分析から、役作りを考えること
  • 絵本のイメージを劇に借りるとき、そのお話の骨格とおもしろさを理解して借りること
  • ストーリーに矛盾がなく、腑に落ちる内容であること
  • イメージとイメージについて、無理なくっつけ方をしないこと

来年は、このようなことを意識して、取り組んでいきたいと思います。

詳しくは、「保育内容領域 表現~日々わくわくを生きる子どもの表現~」わかば社(2018)の第8章をご覧下さい。


おかげさまで、本連載も最終回を迎えました。

書き進める中で、改めて、保育における絵本の大切さを実感することができ、ありがたく思っています。

最近、保護者の方に絵本を紹介することが増えました。

なかなか、絵本を選ぶこと自体が、皆さん難しいようです。

発達に応じて、定番のものからそのお子さんに合いそうなものまで、一度に15冊から20冊ほどお貸しすることもあります。

絵本にふれるお子さんの様子をお聞きしていくと、なかなかおもしろい視点も見えてきました。

これからも、多くのお子さんが絵本の世界を楽しめるよう、工夫を重ねていきたいと思います。

今まで、本当にありがとうございました。

 


写真のひろば(撮影:篠木眞)


「先生はしあわせ」

執筆者


堂本真実子(どうもとまみこ)


認定こども園 若草幼稚園園長。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。教育学博士。日本保育学会第6代会長 小川博久氏に師事。東京学芸大学附属幼稚園教諭、日本大学、昭和女子大学等、非常勤講師を経て、現職。高知大学非常勤講師。

若草幼稚園HP内のブログ「園長先生の部屋」で日々の保育を紹介。

主な著書


『学級集団の笑いに関する民族史的研究』風間書房 2002

『子育て実践共同体としての「公園」の構造について』子ども社会研究14号 2008

『保育内容 領域「表現」日々わくわくを生きる子どもの表現』わかば社 2018

『日々わくわく』写真:篠木眞 現代書館 2018