はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

絵本の環境の意味を広げ深める

―月刊絵本も子どもの環境―


もうすぐ2023年度が終わり、4月から新たに2024年度が始まります。

さて、皆さんは2023年度どれだけ子どもたちと絵本との時間を過ごしたでしょうか。

正直、絵本を通して子どもと関わる時間は、1日のうちで約15分もないかもしれません。保育現場での生活の中で、絵本と1時間も触れあうことはありません。赤ちゃん絵本ならば、さらに短くなるでしょう。

ただ、絵本を読む時間が5分~10分とします。さらに、保育の一年間の日数が200日と単純に数えます。すると、大体一年間の中で、16時間~30時間程度が絵本を通して子どもと関わる時間となります。

一年間で、それだけの時間と思われる方もいるかもしれません。確かに、そこまで多い時間ではありません。

しかし、その絵本に触れる時間があるのと無いのとでは、子どもたちの内面にある生活の感覚や育ちは、まったく違うものになるのではないでしょうか。

大人でも同じです。仕事も生活もある中で、よく本を読む人でも、一日中本を読んでいる人はそんなにいません。

ただ、忙しい生活の中の、たかだかその数分の積み重ねが人生に影響を及ぼすと思うのです。この影響を及ぼす、ほんの数分を生み出すものを「環境」と呼ぶのではないでしょうか。

ダンス、絵画などの活動も同じではないかと思うのです。毎日の数分間の積み重ねが、子どもたちの育ちに寄与していきます。

その数分を生み出す絵本の環境は、皆さんの園では、どのようなものがあるでしょう。

保育室の絵本棚の絵本。絵本の部屋。園文庫の棚。図書館からの貸し出し絵本など、様々な絵本の環境があることと思います。

何千冊もの絵本に囲まれた環境の中で過ごしている子たちもいるでしょう。

さて、果たして、これらの絵本の環境で今の時代には充実していると言えるのでしょうか。

ここで、絵本の環境を園のための環境だけでなく、家のための環境としても捉え、広げ、深めてみてはいかがでしょうか。

絵本で何を子どもたちは求めているかを考えた時に、多くの子どもが心に残す絵本は、家での母親、父親との読み合い、その楽しさを通じ合った時です。

ならば、子どもたちの生活を全体としてとらえ、園のためだけでなく、家庭にまで、子どもの環境を充実させてあげるために、絵本は良いツールとなります。

そこで、今の日本で最も合理的なシステムが「月刊絵本」の採用システムです。

その価値を、もう一度見直していく時代ではないでしょうか。

月刊絵本は、そもそもなぜ生まれたのでしょうか。

それは、やはり子どもたちを育てるためです。

いくつか考えることができますが、

  1. 園児の読書環境を豊かにするため(言葉の教育ため)
  2. 子どもの情緒教育(感情教育)のため
  3. 子どもの感性や表現性を育てるため

大きい枠で考えるとこの3点ではないでしょうか。

このような子どもの育ちを保障するために、子ども1人1人のもとに自分の絵本が届き、家庭にも園にも絵本があるという状況を創られたのです。

この1人1冊に同じ絵本を購入する意義は、様々な意見がありますが、今現場で子どもたちを観ているものとして、そのシステムには大いに賛成します。

子どもたちを観ていると、採用システムとは人の選択の自由を損なうものではなく、子どもたちの育ちを中心にしたシステムだと感じています。

子どもの情緒、感性、言葉を育てるために、一定の水準の質をもった絵本を届けてくれる。保護者や子どもだけでは選べない内容の絵本は月刊絵本だからこそ、出会うチャンスを広げてくれます。

「かわいい」という判断基準や「しつけ」「賢くなる」「寝かせるため」などの絵本だけでなく、真に子どもたちの喜びとなるような絵本の環境を持つために月刊絵本が必要なのです。

補足をするならば、多様な月刊絵本の種類がありますが、それが、いつしか保育者にとって都合の良い絵本が選ばれることが中心になり始めました。

あくまでも「教える」ための教材ではなく、「心を通わす」ことを土台とした環境として月刊絵本を選んでいきたいと思います。

絵本の環境を、広げ、深めること、保障していくことは、保育者の責務です。

その絵本の環境の子どもたちと保育者の「ねらい」を重ねていくことが大事です。

それは、すでに教育要領にしっかりと明記されています。

「身近な人と気持ちを通わせる」ことだと。

その「ねらい」から外れない絵本の環境を保障していくことが保育者の喜びになることを願っています。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。