はじめに
福音館書店の月刊絵本は、「保育の中でたくさん読んでもらうこと」「園児が持ち帰って家でも読んでもらうこと」を大切にしています。
今回、月刊絵本を保育の中で読み聞かせをするだけでなく、全ての園児が家庭に持ち帰って読んでもらう制度を導入した生品(いくしな)保育園(群馬県太田市)の実践を紹介します。
園長の栗原志津恵さんに福音館書店社外講師・勝尾栄さんがインタビューをしました。
栗原園長が考える保育に「月刊絵本」が必要な理由とは?
全2回でお届け予定です。
こどものともひろば 運営係
乳幼児期は、身体だけでなく精神面でも成長の著しい時期です。この時期に行う絵本の読み聞かせは、どんなことを育んでいくのでしょうか?
群馬県太田市にある生品(いくしな)保育園は、今年四十六年目を迎える園です。
保育目標を「豊かな遊びを通して、たくましく健やかに育つ」と定め、子どもたちが保育者と共に遊びきる環境を整えています。この目標の元、開園当時から“薄着・素足・散歩・泥遊び”を一貫して行ってきたそうです。
長い年月をかけて泥山や井戸のある広い土の園庭、毎日の散歩や月一回の山登り、けやきの木を囲んで作られた大型遊具など……子どもたちが思い切り体を動かす環境が作られていきました。今では、子どもたちが夢中になって遊びきる姿が園の日常風景となっています。

一見すると体を動かして遊ぶことだけが保育の柱となっているようですが、絵本の読み聞かせや生活画制作も重要な保育の柱となっています。
これまでも保育の中でたくさんの絵本を読んできた園ですが、昨年(2023年)園と全ての家庭で同じ月刊絵本を読む方針を打ち出しました。
この方針転換によってどんな変化があったのか、絵本の読み聞かせで子どもの中に何が育まれるかについて、開園当初から保育者として働いてきた栗原園長にお話を伺いました。
福音館書店社外講師 勝尾栄
福音館書店社外講師の勝尾栄です。


生品保育園園長の栗原志津恵です。
最初に絵本が保育に必要だと考える理由を教えてください。
私は、絵本には子どもの感性や情操を育てたり、絵本の世界に入ることで子どもなりの世界を創造する力があると思っています。
絵本の物語が “ごっこ遊び”や“見立て遊び”へ繋がっていくこともあるので、絵本は保育にとって重要な存在だと考えています。
保育の中で、子どもたちが自然や散歩などで体験したことと絵本の世界とが一緒になったというエピソードもたくさんあります。
また子どもは絵本や保育者の言葉を聞くことで、言葉の数を増やしていきます。
言葉の数が増えると、子どもは言葉を使って考えるようになり、自分の思いを表現することが出来るようになります。
ですから保護者には “絵本は保育に欠かせません”と話しています。
昨年、全ての家庭に絵本を配本するようにしたのは、どのような理由からですか。
ここ数年ビデオや携帯の画像などを見せる家庭が増えて、生活の中に絵本を読む習慣が減っていることを惜しいと感じていました。
それは絵本の読み聞かせが大切だと思っているからです。
例えば絵本を読む時は、親の声(肉声)を子どもに聞かせることになりますね。この親の肉声で語ることに大きな意味があると考えています。
なぜならビデオや携帯の機械音と違って、肉声で語られた言葉は子どもの心に届くからです。
また家庭での読み聞かせは、子どもをひざに乗せたり一緒に寝ながら絵本を見ますよね。これは親子のスキンシップにもなって親子関係に良い影響があると思います。
親が肉声でさまざまな言葉を語り、親子の関わり合う時間を増やすには、どうしても絵本が必要だと思いました。
そこで保護者に“絵本の読み聞かせを生活習慣の中に取り入れて欲しい”と話し、全世帯への配本を始めることにしたのです。
クラスで月刊絵本を読むようになって、保育に変化がありましたか。
月刊絵本を保育に取り入れる際に、職員と相談して全員で必ずやることを決めました。
それは、“園に絵本が園に届いたらすぐに子どもたちに渡し、次の月刊絵本が来るまでの一ヶ月間は”今日は○○ちゃんの絵本を貸してね“と子どもが持っている絵本にスポットを当てながら保育者が読み続ける。そして次の絵本が来たら、前月の絵本を家に持ち帰らせる”というやり方です。

もちろん保育の中では、月刊絵本だけでなく他の本もたくさん読んでいますが、月刊絵本に関してのやり方を徹底しました。
保育の中で月刊絵本をどう生かすかは、各クラス担任に任せました。
この園の保育者がやることに間違いはないですし、方法を考えて実践するのが保育者の仕事ですからね。
各クラス担任は方法を考えて、絵本の中の一部をみんなで描くとか、お散歩で絵本の世界と同じものを見つけたときは子どもたちに考えさせて絵にするとか、いろいろと工夫をしていました。
年長さんは、絵本の中で自分が好きな場面を描いたり、言葉で紹介するといった活動をしていました。
私は、保育の中で月刊絵本を積極的に読むことによって、保育に新たな手立てが加わったと思いました。
また毎月子どもも保育者も知らない絵本が来るというのは、全員が新しい気持ちで読めるので良いなとも思いましたね。
2023年度実践紹介
ここからは、2023年度の月刊絵本から生まれた生品保育園での実践をご紹介します。
『くもくもじまの カミナリいっか』
富安陽子/文 花山かずみ/絵 こどものとも2023年4月号


5歳児クラス
〈担任の先生からのコメント〉
この絵本を読んだ時、ちょうど園庭に枯れた池があったんです。
そこに雨が降ってきて池に水たまりができました。
すると「ポッコ(カミナリいっかの末っ子)が雨を降らしたのかなぁ」と言い出す子が出てきて、みんなで庭の池を見たり絵本を見たりして楽しみました。
別の日に、ある子が「あそこでポッコを見たよ」と言うと、別の子も「違う所で見た」という話が出てきました。
そこで絵本を登場人物をみんなで書いてみようという話になって、子どもたちが絵を描いたのです。
『おやすいごようです』
林原玉枝/文 及川賢治/絵 こどものとも2023年5月号


5歳児クラス
〈担任の先生からのコメント〉
この絵本を読んで、子どもたちが好きな場面を描くことになりました。
針金が主人公なので、針金を絵につけることになり、担任が針金を曲げることに。
この作品では、子どもから「ヘビの場面を描きたい」と言われヘビを作りました。
針金が太くてヘビの形に曲げるのは大変でしたね。
でも子どもたちはそんなことはお構いなく、ヘビの形だったり、尻尾の先などに細かく注文してきました。
とくにこの作品を作った子どものヘビの形へのこだわりが面白かったです。
『ミミちゃんはどこ?』
松田奈那子/作 こどものとも年中向き2023年5月号


4歳児クラス
〈担任の先生の紹介カード〉
絵本を読んでいくうちに、さらに好きになっていくみんな。
そんな子どもたちから出た言葉は「タンタン(みみちゃんを探している猫の名前)作りたい」「ミミちゃん隠れる場所を作りたい!」でした。
想像を膨らませ、廃材で作りました。つばめ組(4歳児)のネコハウスです。
〈担任の先生からのコメント〉
月刊絵本を保育に取り入れたのは初めてだったのですが、何度も読むうちに絵本の表紙が子どもたちのお気に入りになりました。
お話の内容が「隠れんぼ」だったので、私は「何か形のあるものを作って遊べるといいなぁ」と思いました。
粘土は共有の物なので、(個人の物の)紙粘土にして色も塗ろうと考えて準備をしました。
子どもたちと立体の形が安定するように芯にストローを入れるなどの工夫もしています。隠れる場所の素材は、新聞や紙コップや草履の箱を使っています。
絵本から始まった制作ですが、子どもたちは自分のネコに好きな名前をつけたり、隠れんぼの場所を自由に決めて遊ぶようになりました。
やがて「一人の子が自分のネコちゃんを隠して、みんなで探す」という遊びに広がって、とても楽しかったです。
『たんぽぽ ぽぽぽん!』
中川文/文 川上和生/絵 ちいさなかがくのとも2023年5月号


3歳児クラス
〈担任の先生からのコメント〉
絵本を読んで、好きな場面をみんなで共同制作しました。
「たんぽぽの葉っぱと茎を描いて」と言ったのですが、子どもたちがどんどん自由に描き始めてしまいました。
しかしその絵を見て「これで良いか」と思いました。
たんぽぽは色画用紙を切って貼っています。ちょうちょもいるんですよ。
『カメムシかあさん』
山口てつじ/作 ちいさなかがくのとも2023年6月号


3歳児クラス
〈担任の先生からのコメント〉
この絵本を読んだら、子どもたちはすぐにカメムシ探しを始めました。
熱心にあちこち探し回る子どもたちを見て「触ると臭いのに、よく探しているなぁ」と感心しました。
やっとカメムシを見つけた子どもたちは大興奮。葉っぱの中で2種類も見つけました。
「ハートマークないね」「タマゴはないの?」「本当にいた!」と言っていました。見つけた後も相変わらず熱心に探し回り。
数日後、赤ちゃんらしき虫も見つけました。でも絵本のようにお腹に卵をかかえているカメムシは見つかりませんでした。
そのあと子どもたちが発見したカメムシを担任が撮影し(右側)、絵を描くのが上手い保育士が絵(左側)にして部屋の壁に掲示しました。
(第二回へつづく)
栗原志津恵(くりばらしづえ)

昭和54年 生品保育園 開園
昭和57年 生品保育園 園長 就任
勝尾栄(かつおさかえ)

元福音館書店「母の友」編集長。元立教女学院短期大学非常勤講師。母親歴28年。
現在は、福音館書店の社外講師として絵本講演を行っている。