はじめに


福音館書店の月刊絵本は、「保育の中でたくさん読んでもらうこと」「園児が持ち帰って家でも読んでもらうこと」を大切にしています。

今回、月刊絵本を保育の中で読み聞かせをするだけでなく、全ての園児が家庭に持ち帰って読んでもらう制度を導入した生品(いくしな)保育園(群馬県太田市)の実践を紹介します。

園長の栗原志津恵さんに福音館書店社外講師・勝尾栄さんがインタビューをしました。

栗原園長が考える保育に「月刊絵本」が必要な理由とは?

連載第二回です。

第一回はこちら

こどものともひろば 運営係

福音館書店社外講師の勝尾栄です。

生品保育園園長の栗原志津恵です。

昨年家庭に毎月配本したことで、保護者からどのような反応がありましたか?

ある保護者から“子どもの絵本への態度が変わった”と言われました。お話ししてくださった方は、もともとお子さんに家の絵本を読み聞かせしていたそうです。しかし園から月刊絵本を持ち帰るようになってから、絵本を集中して見るようになったそうです。“今までとは違って、物語の中に入っていくような感じがする”という感想でした。何人かの保護者からも“子どもが変わったんですよね”と言われました。子どもは家に持ち帰る時までには、すでに絵本の内容を暗記してしまっている状態なので、子どもが絵本を見せて親に物語を伝えたりもしているようです。批判がなかったので、今年も続けることになりました。

園で絵本を読む時間は、登園・お昼寝・3時のおやつ・おかえり・延長保育の前後です。

しかし担任の判断でその他の時間にも読み聞かせが行われていました。

保護者への取り組みとしては、1 日の出来事を書くホワイトボードの横に読んだ絵本を並べて掲示したり、絵本を写真に撮って親へ配信するなどをして「絵本を大切にしています」とアピールしているそうです。

栗原園長は、これからは「思考できる子、言葉を使って考える子を育てたい」を目指したいと語ります。
ここに絵本の読み聞かせも重要な役割を果たしているそうです。

かつての私たちは体をしっかり作っていくことを優先して保育を組み立てていました。しかし新美俊昌先生※の講演を聞き、手と目と頭がちゃんと響応して見たものを見たように描ける力、子どもが自分の思いを綴れる言葉がないと、どんなに遊んでも遊びっぱなしになると知って、保育を見直しました。子どもが体験を記憶し、その体験を考えて整理し、これを絵に描いたり言葉にして表現する保育に変えたのです。言葉を持たないと考えることはできません。子どもがしっかり考えるためにはたくさんの言葉が必要ということです。だからこそ絵本の言葉や保育者からの言葉かけが大事なのです。

子どもが自分の体験を話し言葉にするのは、実はすごく思考している証拠です。以前、体験を語る子どもが“言葉を脳みそからひねり出すので、頭が疲れる”と言っていました。子どもの体験が豊かあればあるほど、豊かな言葉が出てきます。私は子どもが頭の中で自分の体験や気持ちを言葉を使って考え、これを相手にしっかりと語れるようになることが重要だと思っています。

※著書に『子どもたちの発達と描く活動』(新美俊昌/著 大阪保育研究所/協力 かもがわ出版)など。

この取材を通じて、絵本は子ども集団の遊びの幅を広げるだけでなく、体験と物語が合体した新しい世界を創造したり、思考の下支えとなる言葉を増やす。また読み聞かせは、肉声で読むからこそ言葉が子どもに届き、読み手との人間関係や子どもの内面に良い影響を与えることが分かりました。

2024年度実践紹介

ここからは、2024年度の月刊絵本から生まれた生品保育園での実践をご紹介します。

『いちご おおきくなーれ』

たむらしげる/作 こどものとも年少版2024年4月号

『てんとうむしのとん』

得田之久/作 えほんのいりぐち2023年6月号

2歳児クラス

〈担任の先生からのコメント〉

子どもたちは、絵本が好き。絵本を読んでと言って持ってくる子もいれば、自分の絵本を取り出して見ている子もいます。

今回は障子紙を使った大作をみんなで作りました。背景は、色水をいれたビニール袋の端を破って子どもたちが染めました。


イチゴは、イチゴの形にくり抜いたA4の紙を子どもに渡し、スポンジで色付けをして作ったんです。

担任としては「イチゴがだんだん色づいていく絵にならないかなぁ」と思ったのですが、そうはいかなかったのでガラス戸に少し色づいたイチゴを描いてみました。

イチゴの近くにある小さな赤い点は、“てんとう虫のとん”です。1歳児の時に読み聞かせていた絵本『てんとうむしのとん』を覚えていた子が「“とん”も入れたい」と言って描き加えたものです。

去年の絵本が、今も子どもの中に物語がちゃんと残っているんだと思いました。

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『ごはんだよ! だんごむし』

石橋真樹子/作 ちいさなかがくのとも2024年4月号

葉っぱをめくるとダンゴムシが…。

3歳児クラス

〈担任の先生からのコメント〉


絵本を読んでも子どもの心が動かない場合もありますが、この絵本は子どもたちの心がすぐに動きました。

絵本でダンゴムシが落ち葉や野菜を食べることを知り、調理室から残った野菜などをもらって飼うことになりました。飼育箱に20匹から30匹ぐらいいると思います。

その後、みんなでダンゴムシのいる場所の絵を描くことになりました。子どもたちはそれぞれダンゴムシを描いて、ダンゴムシがいた場所に貼っていきます。

ある子が「葉の裏にもいる」というので、めくれる葉っぱを用意しました。

「切り株の裏にもいるよ」という子がいるので「切り株をどうやって作ろうか」と悩んでいるところです。

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『いってきまあす!』

わたなべしげお/文 おおともやすお/絵 

1歳児クラス

〈担任の先生のコメント〉

園では子どもと保育者が一緒になって泥遊びをしているので、泥を洗う前に泥の手形や足形を残そうという話になりました。

そこで泥の形をつけるためにシーツを用意しました。大人の手形や足形がは
っきりしているのは体重のせいですからね。

子どものは、よく見てもらえば、ふわっとしながらもちゃんと形が残ってますよ。

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『くさぶえあそび』

井上大成/文 中田彩郁/絵 かがくのとも2024年4月号

4歳児クラス

〈担任の先生からのコメント〉

絵本を読んで、早速子どもたちは草笛を作っていました。吹けなくても、挑戦はするんですよ。

みんなで園庭の“けやき木”の葉を丸めて笛を作ろうとしていました。

背の高い子が上のほうの葉っぱをとって、小さい子に渡していました。でも、けやきの葉では笛は作れない。

そこで子どもたちは丸くしてセロテープで止めたり、自分で「ぷーぷー」言ってみたりしていました。

笛にならないなら丸めた葉っぱを紙に貼り付けて作品にしちゃおうということで画用紙に貼って作品にしました。

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いい はが はえる おまじない

まるやまあやこ/作 こどものとも2024年4月号

子どもたちの言葉を書きとった短冊

5歳児クラス

〈担任の先生からのコメント〉

5歳児クラスになって、絵本の場面を初めてグループに分かれて描くこと
にしました。

中央の絵は、絵本の場面がシンプルだったので、難しかったそうであまり描き込んでいないように見えます。

でも子どもたちが「これでいい」というので完成としました。

絵について、子どもたちがたくさん語ってくれたので「いろんなことを考えているんだ」と思いました。

〈子どもたちの「つぶやき」〉

・歯もあるし、ネズミがいるから可愛い所だなぁと思った。ゆうとがさ、おまじないをして、家に帰るところがいいなと思った。


・歯がすぐ生えてくると嬉しいからおまじないしてる。たいちは大事にするために箱にしまっててる。全部の歯が入る箱。箱を入れる所がいい。


・りっちゃんも大切に取っておく。そらも箱にしまってあるよ。


・大人の歯は、大事にしないといけないんだよ。

・大人の歯は、新しくならないんだよ。


・ちっちゃい歯からでっかい歯になっちゃったからじゃない?

・子どもの歯の下には、大人の歯がある。


・大人の歯が押してるんじゃない?

・大人の歯が子どもの歯を押すから、グラグラして、子どもの歯が抜けて、何日かして大人の歯が生えてくる。


・大人の歯の下には、もう歯がないから、抜けたらおしまい。


・大人の歯は大切にしないといけない。


・大人の歯を大事にするには、歯磨きをしないといけない。

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ならべかえ

瀬山士郎/文 青柳幸永/絵 かがくのとも2024年5月号

4歳児クラス

〈担任の先生からのコメント〉

この絵本を読んで、四角を三角に切る。それをもっと切ってみる。どんどん切っていきました。

手を動かしていくと、なにか発見があるようですね。

たくさん紙を切って、切ったものを使ってまぐろ、ねこ、家など…思い思いに自分の好きなものを作っていました。

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生活画について

毎日2、3人ずつグループになって、午前保育の時間に描いている。
子どもがどんなことをして遊んで、その時どう思ったかを絵に描き、一緒に遊んでいた保育者が子どもの言葉を拾って短冊(絵の下に貼ってある紙)に綴っていく。

話したい気持ちはあるけれど言葉がなかなか出ない場合、一緒に遊んでいた保育者が「こうだったね」と話しかけると、「ああだった」とか「そうじゃない」と反応し、だんだん話し始めるようになる。

出来上がった絵と聞き取った言葉は、お昼寝の時間に部屋に貼り出す。

栗原園長は「話すことで言葉が増えていき、話し言葉で長く語ることが大事だと思っている」と語った。

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栗原園長コメント

生品保育園では、絵本を読みっぱなしにしない、遊びっぱなしにしないを基本としています。


子どもたちは体験したことを形にするため記憶しますし、言葉を使って思考しています。

そして蓄えた言葉を使って思考して、表現活動を行います。この言葉を蓄えるには、絵本の読み聞かせや保育者との会話が大切だと思っています。


絵本を読んでもらっている時の子どもたちは、一見すると受動的に見えます。

しかし絵本と子どもの関係は一方通行ではありません。子どもが絵本の世界を表現する時は能動的になるのです。

つまり絵本の世界を子どもの中に取り込んでいる時や絵や形に表現する時、子どもは能動的に活動しています。


子どもが一方的に物語を受け入れる受動的な存在でないことを、絵本に関わる人には知って欲しいと思います。

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栗原志津恵(くりばらしづえ)


昭和54年 生品保育園 開園 
昭和57年 生品保育園 園長 就任 

勝尾栄(かつおさかえ)


元福音館書店「母の友」編集長。元立教女学院短期大学非常勤講師。母親歴28年。

現在は、福音館書店の社外講師として絵本講演を行っている。