はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

家庭の生活・園の生活

園と家庭をつなげる絵本


最近、月刊絵本の「こどものとも」シリーズを子どもたちと読んでいて感じ、考えることがあります。

福音館の月刊絵本の最も良いところは、「生活」とのつながりの豊かさ、だということです。

当園では、子どもと創る生活として、様々な自然物の環境を豊かにしています。お花や野菜などの植物、生き物との関わり、砂水土泥などの環境を最も大事にしています。

子どもたちは、その環境を通して、遊び、生活し、育っていきます。

それは、季節の生活を軸とした保育のカリキュラムがあり、計画があり、それが最も子どもを育てるものだと確信しているからです。

そして、福音館の月刊絵本には、その自然や季節の要素が、違和感なく物語や絵、言葉の中に織り込まれています。

狙ったように、「種」→「芽」→「花」→「実」などの、今ではネットを調べれば簡単に画像が出てくるような知識や写真ではありません。

物語ならば物語の要素として、科学絵本ならば違った視点(普段、思いもよらない視点)から、子どもだけでなく、保育者の感覚も研ぎ澄まされていきます。

それによって、子どもたちの園での生活がより豊かになっていきます。

今年度のちいさなかがくのともシリーズの10月号で『さつまいももちやけたかな』という月刊絵本が出ました。

おおとりの森こども園では、必ず秋にはさつまいもを収穫しています。

例年、さつまいもの苗から育て、収穫し、そして焼き芋など、秋の風物詩を子どもたちと楽しみます。

「楽しむ」というのは、落ち葉集めから火のお世話まで全て子どもたちと行ないます。コーンをたてて近づけさせないようなことはしません。全て、子どもたちと共に創っていきます。

さて、その一年の循環の中に、『さつまいももちやけたかな』が届きました。まずは、子どもたちに読む前に保育者が読んでみます。

【あらすじ】
子どもも大人も大好きな秋の味覚さつまいも。ゆでるだけでも、ホクホク美味しいのですが、そこにちょっとひと工夫。ゆでたさつまいもに片栗粉と水を加えて揉んでいきます。それを丸めて焼いてみると……モチモチ食感の「さつまいももち」に大変身。

このあらすじだけでは、この絵本の魅力は分かりません。

保育者や私が面白いと思ったのは、アルミホイルでさつまいもの皮を剥くという工程です。

これならば、子どもと共に「楽しむ」ことが、さらに増えたと喜びました。

芋類は、年長や年中ならばピーラーも扱えますが、低年齢の子どもには難しい部分もあります。そこで、このアルミホイルの皮むきならば、「みんな」で楽しめ、生活が豊かになることを確信しました。

子どもたちは、そういった「自分もできる」内容に敏感です。子どもたちに読んでみると、案の定3歳児も大きく反応します。保育者もその反応を観て、何回か読んでみます。すると、家でも「さつまいももち」食べたいと子どもたちは連呼します。


さて、子どもたちも待ちに待った「さつまいももち」のクッキングの日です。

やりたい子だけがやってきます。早速、いつも難しい皮むきをアルミホイルで行ないます。そして、後は絵本通りの工程で調理していきます。

3歳児は入れ替わり立ち替わりですが、全員が参加しました。

皮を剥き→茹で→片栗粉や砂糖を混ぜ→つぶし→自分で形を作り→焼き→食べ→餅のように伸びるのを楽しみます。

子どもたちの様子を観ていると、絵本の内容を振り返るように、「ここ絵本と一緒だね」「本当にのびた!」「甘い!おいしすぎる!」「観て、皮が全部むけた!」と実体験と絵本の中身を重ねていきます。

大人と子どもと共に共通体験を豊かに重ねていきます。それにより、子どもたちの有能感、所属感、貢献度、肯定感など、子どもたちの内面もどんどん豊かにしていきます。

このように、年間の中の季節で秋の生活があり、そこに月刊絵本が違った視点を持ってきてくれました。そうして、月刊絵本と保育がつながっていきます。さつまいもという豊かな環境を春から構成しているからこそできた実践です。

さて、今年は、もう1つさつまいもの絵本がありました。月刊絵本「こどものとも年中向き」の10月号で、『すいっとぽてっと』という絵本です。

楽しい物語の絵本です。

4歳児の子どもたちにちょうど良いファンタジー感です。少しとぼけた感じの猫が子どもたちを魅了します。

【あらすじ】
女の子とヤマネコが、一緒にスイートポテトを作ります。食いしんぼうなヤマネコは、出来上がりが待ちきれません。スイートポテトを「すいっとぽてっと」と聞き間違えて、「すいっとぽてっとの歌」を歌って踊って、いまかいまかと待ちわびます。

ある4歳児の女の子が月刊絵本を喜んで家に持って帰りました。

そしておうちでのクッキングが開始されました。

お母さんと4歳の娘のかけがえのない時間です。

園で出会った自分の絵本を、家に持って帰り、母に読んでもらい、そして共にスイートポテトのクッキングをする。なんと豊かな時間でしょうか。

この子にとって、物語が絵本で終わらず、自らの物語にもなった瞬間です。

それは、絵本の物語の「やってみたい」と思える面白さ、母の愛情深さ、娘の好奇心、そしてそのための時間があったことなど、色々な要因があります。

園と家庭がつながった瞬間です。

そして、母親からその話を聞いたときに、ただの「スイートポテト」ではなく「すいっとぽてっと」が創られたのだと分かります。

それは共有体験の深さと広さです。

この絵本がなければ、ただの「お料理の一時」で終わってしまい、保育者との共有感は薄いものになります。

知っている物語だからこそ、「あー!あの絵本の!」と共感性が深くなるのです。

これぞ、月刊絵本!

「みんな」で知っている。

「共通」「共有」「共感」こそ福音館の月刊絵本の醍醐味だと感じた瞬間です。

こういった事例があるから、月刊絵本は家庭に持って帰る価値があると感じます。

1人1冊、自分の絵本。

こんなに特別な絵本は、あまり無いのではないでしょうか。

そして、それを友だちも同じ絵本を持っているという安心感と所属感。

これこそが、月刊絵本の醍醐味です。

園用の絵本だけでは決して生まれない事例です。

園と家庭を月刊絵本と子どもを通してつながっていく。

本当の子育て支援とは、大人だけのためにあるのではなく、「子どもが育つ」ためにあります。

そして、それは、月刊絵本の役割として今だからこそ求められているのではないでしょうか。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。