はじめに

いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

 今回はシンプルに”子どものための絵本”そのものの良さについて記したいと思います。そう思ったのは、ある絵本の表紙に出会ったからです。

 その絵本は、

「こどものとも」2026年5月号の『めんどうくさがりやの きつね(植垣歩子 作)』『めだまやきがにげました(鬼頭祈 作)』の2冊です。その絵本たちには、子どもと子どもを取り巻くものが山ほどあったのです。

1・『めんどうくさがりやの きつね』

▼あらすじ
めんどうくさがりやのきつねは草むしりが大きらい。ある日、迷子のこひつじ5頭を引き取って、庭の草むしりをさせようと企てました。ところが、こひつじたちは……。

▼表紙
 まず寝転ぶきつねの表紙を見たときに、「うお! H君だ!」とすぐに思いました。寝転び方、お腹の感じ、足のふくれ具合、ひじの付き方、まわりの物の散乱の仕方、お皿を洗わない生活。その風体が、もう目の前にいるH君そっくりだったのです。そして思いました「なんて愛おしいきつね(H君)だろう」と。

▼P1:絵本をひらくと
 草がボーボー。まわりの人たちの表情や目線が迷惑がっているのが一目で分かります。恥ずかしげも無く窓を全開で寝転んでいます。煙突まで曲がっています。煙突までめんどうくさがりやに見えます。

▼P2-3:きつねの家の中
 物の散乱は一人暮らしの人にも見えますが、めんどうくさがりやの子どもが遊ぶと部屋は同じような状態になるものです。それでも気にせず寝られるのも子どもです。

▼P4-5:ぶたさんが困っている
 この時のきつね君のちらっと片目だけで見る目線の送り方もH君そっくりです。

▼P8-9:ワイシャツやジャケットを着る
 こういう服を着る時や仮装する時は、まー格好つけるのです!! ここもH君と同じです。自分は格好良いと思っているのです。

▼P12-13:こひつじたちを連れて帰る
 ポケットに手を入れて歩いているところが、もうH君です。なぜか先頭が好きなのです。

▼P20-21:こひつじの予想外のパワーに】
 予想外のことが起こってびっくりするとき。泣き疲れたて困って耳をふさぐとき。これもH君そっくりです! さーおせっかいやのぶたさんがやってきました!

▼P22-23:叱られて……
 仕方無く、ブツブツと、俺は悪くないのにと言った表情で、こひつじたちのための草を刈りに、誰かに言われたらやります。ここにもH君がいます。

▼P26-27:やっているうちに……
 草を刈り、畑をつくり、お風呂に入れて、寝かしつけます。今、年長になったH君も当番活動を頑張っています。ここも重なります。

▼P32:仲間ができる
 そうやって、人と楽しく暮らしていると、輪ができます。こひつじたちの世話もみんなが見てくれるようになります。これも園の様子のクラスと重なります。

 めんどうくさがりやが出てくる物語を、子どもたちは大いに喜びます。あの「わにわに」だって、お風呂に入っても、お風呂ですべきことはひとつもしていません。だからこそ、子どもらしさがあふれるのでしょう。

 大人の倫理観より前に、子どもは必要性がないとやる気が出ません。この絵本のきつねもH君も必要性を感じると身体が他人のために動くのです。園に置き換えると、ぶたさんは保育者。きつねは年中と年長の子ども。こひつじたちは2歳児から3歳児でしょうか。先輩のお兄さんは叱られながらも頑張るのは当然です。

 物語絵本を読むことは、子どもが自分を発見できる時間でもあります。だからこそ、なんとなく、そのお話に入り込み、共鳴し、共感し、そして友だちと読み手の大人とも共有していくのです。

 同じ「こどものとも」シリーズでも、林明子さんの絵本などは子どもを生き生きと細部まで描いていますが、『めんどうくさがりやの きつね』のような愉快でコミカルな物語にも、「いる!いる!こういう人!」というような本物感があるのです。

2・『めだまやきがにげました』

 そして、もう1冊『めだまやきがにげました』も少しご紹介します。目玉焼きが逃げる物語に子どもを発見できるのでしょうか!? もちろんできます! 「逃げる」は子どもの最も好む行動です!

▼あらすじ
 きょうの朝ごはんは、めだまやき。フライパンに卵を2つ割り入れて、ジュー……あっ、めだまやきが逃げました! 逃げた目玉焼きは家を飛び出し、街頭に、人ごみに、公園に、つぎつぎ隠れてしまいます……。


 さて、この絵本はあまり中身を話すと面白くありません。

 皆さんは、ぜひ手に取って子どもたちと楽しんでほしいと願います。表紙を見た瞬間にユーモラスさと、荒唐無稽なナンセンスの強さを感じます。

 幼い子どもたちであればあるほど、子どもは今あるところから逃げたくなります。ここではないどこかへ、目的があるのかないのかも定かではないなか歩いて行きます。ときには走って行きます。

 この絵本に出てくる目玉焼きも追いかける人たちも、行き当たりばったりなようにも見えます。目玉焼きにとっては、かくれんぼか鬼ごっこかもしれません。でも「逃げる」からこそ楽しいのです。

「子どもの遊び」とは、そもそもそういうものではないでしょうか。

 キレイでたいそうな遊びも保育としては重要です。ですが、そもそも子どもの遊びとは、刹那的で、瞬間的なものです。それを分かってあげることで子どもたちは初めて自分らしさを大事にされたと思えます。

 この絵本は、子どもたちの遊びへの心持ちをすくってくれる物語ともいえるのではないか。この絵本が良いのは、それを派手に、わざとらしく描くのではなく、そのまま「なんとなく」を描けているところにあります。それが、より「子どもらしさ」を描ける結果になっているように感じます。

 今回ご紹介した2冊は、「子どもたち」をそのまま表している。そんな物語絵本です。どうか手に取って子どもたちと読み合ってください。


執筆者

松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。