2022年2月1日、福音館書店は、おかげさまで創立70周年を迎えました。

70周年を記念し、読者のみなさんに福音館の本により親しんでいただけるよう、「編集長が語る、福音館の本づくり。」と題して、各編集長のエッセイをお届けしていきたいと思います。

第4回は、5~6才向けの科学絵本「かがくのとも」を刊行している「かがくのとも編集部」です。


人生を楽しい散歩道に!

かがくのとも編集部編集長

二神泰希


こんにちは! かがくのとも編集部の二神と申します。

「かがくのとも」は5、6歳ぐらいの子どもたちに向けて、毎月1つのテーマを取り上げた科学絵本をお届けしています。

取り上げるテーマは、昆虫、人体、食べものなどの身近なものを中心としつつも幅広い、現実世界の様々なものごとです。

「かがくのとも」は、定期購読して下さっているかたが多いです。

しかしそうすると、1冊1冊選んで買うのとは違って、お子さんがあまり興味を持っていないものがテーマとなった絵本を手にすることもあるようです……

でも、そんな、一見すると定期購読の短所のような所に、じつは、長所が、「かがくのとも」が月刊科学絵本たる所以が、「かがくのとも」の願いともいえることが! 潜んでいるんです。

「かがくのとも」は、読んでいるうちに、次第にそこに描かれているものに心ひかれ、読み終えるころにはすっかり心をとらえられてしまう……

そうして、子どものかけがえのない1冊になる……

そんな絵本を目指しております。

そして、「かがくのとも」をお子さんに読み聞かせされた保護者のかたがたの感想のお便りやメールなどを通じて、それが実現できていると感じております。

だとすると、「かがくのとも」を毎月1冊購読するということは、毎月1つずつ、現実世界に強く心ひかれる対象が増えていくということです。

そして、強く心ひかれる対象が増えるということは、この世界に深い親しみを込めて見つめられる存在、言うなれば“ともだち”が増えるということです。

突然ですが、スタジオジブリ制作の映画『となりのトトロ』の主題歌『さんぽ』をご存知でしょうか? 

「かがくのとも」を知らなくとも、この『さんぽ』はご存知なかた、歌ったことのあるかたが多いかと思います。(じつは、この曲の歌詞は『ぐりとぐら』などの著者、中川李枝子さんが書いたものです!)

私、我が子と出歩くときによくこの歌を口ずさむのですが、あるとき、はっと気が付いたんです。

『さんぽ』の歌詞は、毎月「かがくのとも」を読む子どもたちに「世界をこんなふうに感じてもらえたら……」と願っていること、そのものだ! と。

一体どういうことなのか、本当はここで歌詞をすべてご紹介したいのですが、今回は、特に「かがくのとも」の願いに関係の深い部分だけを以下に引用してみますね。(よろしければ皆さんのほうで『さんぽ』の歌詞を調べていただき、ぜひ童心に帰って一番から三番まですべて歌ってみて下さい)

「あるこう あるこう わたしはげんき」
「くものすくぐって くだりみち」
(一番の歌詞より引用)

「みつばち ぶんぶん はなばたけ 
ひなたにとかげ へびはひるね 
ばったがとんで まがりみち」
(二番の歌詞より引用)


「きつねも たぬきも でておいで 
たんけんしよう はやしのおくまで 
ともだちたくさん うれしいな 
ともだちたくさん うれしいな」
(三番の歌詞より引用)


(『となりのトトロ』主題歌『さんぽ』より,作詞:中川李枝子,作曲:久石譲,発売日:1999/12/1)

ここで、またしても突然ですが、クイズです!

Q:三番の歌詞の「ともだち」とは何を指しているでしょうか。歌詞の中の言葉で答えて下さい。

考えていただけましたか? 私が考える正解は……

A:くも、みつばち、とかげ、へび、ばった、きつね、たぬき

そうです……

「ともだち」と言っても人間には限っていないんですね。

『さんぽ』の歌詞の「わたし」は、たとえ人間の「ともだち」がそばにいない時でも、世界に、散歩道に、「ともだちたくさん」と感じて「うれしい」わけです。

ここでようやく「かがくのとも」の願いの話に戻りますと……

私は、子どもたちに『さんぽ』の「わたし」のように「うれしく」、人生という散歩道を歩んでほしいと願っております。

そして、そのために「かがくのとも」は、子どもたちに毎月「ここにも、きみのともだちがいるよ」と語りかけ、楽しい“かがくの”入り口へといざなう、子どもたちの“とも”のような存在であり続けたい! そう願っております。

▼私のお薦め・好きな1冊。


『アリのかぞく』島田拓 文/大島加奈子 絵

我が子の素朴な疑問(そして、おそらく子どもたちの定番の疑問の一つ)がきっかけで、企画した「かがくのとも」です。

長女が3歳ぐらいの頃でしたか、公園でしゃがんで動かなくなったことがありました。

何事かと私もしゃがんでみると、娘は地面のアリの巣を見つめていたのです。

そうしてしばらく見つめたあと、私のほうに顔を向けて「このなかって、どうなってるの?」と聞いたのでした。

「そんなときは、この疑問にピッタリのアリの絵本を探して読み聞かせだ!」と、はりきって「かがくのとも」のバックナンバーを探し、その後、世に出ている科学絵本を探したのですが、アリがテーマの科学絵本は数あれど、どうも痒いところに手が届かないのです。

巣の断面図はいくつも見かけましたが、アリが、その巣の中でどんなふうに家族で生活しているかが活き活きと伝わってくるような描写が見当たらないのです。

もし自分が編集の仕事をしていなければ、ただただ、残念な気持ちになっただけでしょう……でも、私はその時すでに「かがくのとも」の編集者……「こんな身近なところに、まだ掘り返されていない宝(企画)が!」と、心の中でガッツポーズしたものでした。