「母の友」2018年5月号の記事を転載してお届けします。「母の友」は、園や家庭で、子どもたちとの日々がもっと楽しくなるような「子育てのヒント」と「絵本の魅力」を毎月お伝えする雑誌です。

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子どもと大人の言葉
環ROYさん「言葉はおもしろい」

たまきろい 1981年宮城県生まれ。ラップを用いた音楽作品の制作を行う。

金沢21世紀美術館や、愛知県芸術劇場などでパフォーマンス作品も発表。

2017年に発表された5thアルバム「なぎ」では、平安時代の歌人、藤原敏行の和歌を引用している。

これまでに6枚の音楽アルバムを発表、国内外の様々な音楽祭に出演。

こどものとも2020年12月号『ようようしょうてんがい』で文章を担当。

言葉はおもしろい


はじめして。環ROYと言います。ラッパーをしています。

ぼくには0歳の子どもがいます。赤ちゃんなので、ほめたり、しかったりはまだしていませんが、よく一緒にしゃべっています。

最近『ごぶごぶごぼごぼ』という絵本 (駒形克己作 福音館書店)が好きなので、ごぶごぶ、ごぼごぼ、と声に出すと、その音が気持ちいいのか、うれしそうにしてます。

いいなって思います。

赤ちゃんと妻とぼくと、家族でよく散歩をします。

この間、道を歩いていたら、工事現場の前に、五歳く らいの子どもとお父さんがいました。

子どもが「パパ、 これ、なにやってんの?」と聞くと、お父さんは「恐竜の化石ほってんだ」と言いました。

明らかにウソなんだけど、子どもは「え、そうなの? なんの恐竜?」 と話を続けていました。

工事現場から発掘、恐竜ヘイメージがつながっていく。

おもしろいですね。

ぼくはライブなどでフリースタイル・ラップをします。

フリースタイル・ラップというのは、即興で、リズムにのせて、言葉を構造化して、音楽のように聞かせる行為です。

言葉の構造化ってなんだ? っていうと具体的に二つのことをしています。

一つは母音をそろえて、耳に心地のいい音のつながりを作ること。

たとえば、「カラス」「ガラス」「砂漠」といった言葉を思い浮かべます。

もう一つの作業は「カラス」なら「黒」、「ガラス」なら「透明」のように言葉から連想できるイメージを思い浮かべます。

そうして「黒いカラスの目はまるで透明なガラス 都会は砂漠 みたく乾く」みたいな文章ができます。

さらに続けるなら「乾く」は「科学」とか 「明かす」のように母音が合っているほうにもいけるし「喉」とか「洗濯物」などのイメージにいくこともできます。

それをいったりきたりする感じです。

ぼくは、ときどき子ども向けに、ラップのワークショップをすることがあります。

そこでも、「似た音」 と「イメージ」を繋げることだよ、と言っています。

ワークショップでは、みんなでアイウエオ表を見ながら、似た音の言葉を集めて、並べてみます。

たとえば、 こんなの。

ぽ と ぽ と お と を だ す ポ ッ ト

た こ が は こ の な か か ら な ぞ な ぞ だ すよ

ガ ラ ス で で き た カ ラ ス が さ わ ぐ

そんなことをしていたら、あるとき、ひとりの小学生女子に「そんなものはない」と言われてしまいました。

「ガラスのカラスなんかいるわけない」と。そう だねえ、いるわけないよねえ、うん、と思いました。

小学生になると、現実と空想の区別がしっかりついてくる。

それはとても大切なことだし、また「自分はそれをちゃんとわかってる」と表明するのも悪いことじゃない。

でも、ちょっとさみしい気持ちになっちゃって「いいじゃん、ほんとにいなくても。勝手に想像し てもいいじゃん」と口答えしてしまいました。

たぶん、きっと、その子も、大きくなれば、「ガラスのカラス」、おもしろいじゃん、と思うようになるんだろうな、と思います。

というか、そうなってほしいなって思います。そんな大人のほうが、いろいろ、 たのしいと思うから。

「現実にないなら意味がない」って考えは、たとえば「目に見えるものがすべて」って発想にもつながると思うんです。

でも、目に見えない、つまり、現実にはないかもしれないけど、見えないからこそ大事なこともきっとあるわけで。

だから、小学生の、成長の一過程としてそういう時 期はあると思うけど、あんまり、言葉を現実的に考えすぎないほうがいいと思うんです。

意味はよくわからないけど、きれいな音、すてきなイメージ。

言ってみれば、あんまり役に立たない言葉を楽しむスタンスって大事じゃないかな、って。

ほめる言葉、しかる言葉、だれかの役に立つ言葉。

でも、言葉ってそれだけのものじゃないと思うんです。

たとえば言葉の音の部分に注意を向けたら、赤ちゃんのだーだーって言葉が音楽に聞こえてくるかもしれない。

言葉をイメージでとらえるようになれば、子どもの言い間違いを聞いて、美しいじゃん、と思うこともあるかもしれない。

こういう感覚でいたほうが大人も子どももおもしろいんじゃない? って思います。(談)