はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係

保育の視点で絵本をのぞく

子どもと通じ合うために

2024年4月号


2023年度も終わりがきます。皆さんの園の子どもたちは、いかがお過ごしでしょうか。

おおとりの森こども園の子どもたちは、保育者も子どもたちも、1人1人が成長を見せてくれています。

さて、2023年度が終わると、息をつく暇もなく、2024年度が始まります。新年度準備は、保育現場はバタバタします。毎年の繰り返しといえ、そこにかける熱量や仕事量は少しずつ変わります。

その中に月刊絵本などの新学期の用品選びがあります。

当法人では、すべての園で「こどものともシリーズ」を選んでいます。それが、最も子どもたちにとって、そのご家族にとって、最善だと考えているからです。

さて、今回は、2024年度の新学期の用品選びの一助になるかは分かりませんが、私なりに2024年度の4月号を保育の視点でのぞいてみたいと思います。

保育者だからこそ、持ってほしい視点があり、それを活かしてほしいのです。

絵本そのものについて、その読み方について、そして様々なことへのつなげ方について。簡単にまとめてみました。

2024年4月号 一覧

こどものとも0.1.2.

『でておいで』

〇テーマ「赤ちゃん」

赤ちゃんは赤ちゃんが好きです。海外のブックスタートでは、「赤ちゃん」がテーマの中心で、赤ちゃん自身が登場するものを選ばれるのがスタンダードだったりします。子どもの興味関心を優先することは日本の保育の基本ですが、それに応えてくれるテーマです。まずは、その子たちの興味関心のあるもので、新年度をスタートさせたいものです。そして、絵本のスタートも、「自分(赤ちゃん自身)」からがわかりやすいように思います。良いなと思うのは、赤ちゃんが抽象的に描かれている点です。男女の性別を明確に分けていないことが今の時代にもマッチしており、どの子にも響きやすく、共鳴しやすい絵本です。

〇4月号なりの読み方

こういったシンプルな絵本は、子どもによって読み方が変えられることも利点です。いくつかのパターンがあります。

1.そのまま読む


言葉通り、絵本に書いている通りに読んでみてください。それを楽しむ方法です。絵本に興味関心の強い月齢が高い子ならば、そのまま読んでも大丈夫かもしれません。

2.絵本を媒介に言葉をかけるツールに


この絵本の魅力は、赤ちゃんの身体の部位が一つ一つ登場することです。絵本を読みながら、「おててだね~」「お口だね~」と、その子の身体の部位をさわりながら、言葉をかけてあげてください。子どもたちに絵本は心地よいものと伝えてあげることができます。

3.「いないいないばあ」のように


「いないいないばあ」のように、「おくちがばー」、「あたまがばー」など、赤ちゃんがテーマだからできる読み方です。遊ぶように、「ばー」と共に喜び合って読んでも良いと思います。いっぱい遊びたい子におすすめです。

〇遊ぶしかない

保育環境に布はありますか!? 赤ちゃんの保育室にはあると思います。ぜひ、この絵本と同じように遊んでみましょう。この絵本の第2のテーマは「布遊び」です。気持ちのいい布で、コミュニケーションを豊かにする遊びを大事にしましょう。こういう絵本は、読みっぱなしではなく、遊ぶしかありません。生活で忙しい赤ちゃんクラス。少なからず遊びの豊かさに寄与してくれる絵本です。

こどものとも年少版

『いちご おおきくなーれ』

〇テーマ「春の生活の楽しみ方」

4月。季節の始まりは春です。日本の保育の春の環境の定番に「いちご」があります。子どもたちの大好きないちごの色の変化が分かりやすく見事に描かれています。3歳児あるあるですが、緑色のいちごをとってしまいます。しかし、それも保育の一部になります。「待てば待つほどおいしくなるよ」の体験が待っています。食物の植栽とは生活に待つことを生み出します。そこに、観ること、味わうこと、感じること、と、いちごだけで春の生活が豊かになります。主人公のねずみたちは、まさに3歳児の姿。子どもたちは自然と自分を重ねて、共感の中で物語を楽しむことができます。途中で出てくる鳥は、まさに保育者の代わりに春の生活の楽しみ方を伝えてくれます。

〇科学と物語を楽しむ

いちごの生長に現実味があるのもポイントです。いちごの受粉をハチ、風が行なってくれること。採ってしまう3歳児。少しずつ大きくなること。赤色になるにはお日様がいることと、現実に基づいた絵本創りがされています。いちごの偽物の匂いや写真でなく、そこに主人公がいるからこそ、物語への共感性も高くなり、また知識も間違いなく伝えられます。科学と物語の両方が楽しめます。また、最後まで、お腹いっぱい食べるネズミたちは、余計な遊びがないからこそ、春の生活に真っ直ぐです。

〇生活とつなげる

実際の生活とつなげてほしいところ。植えてみよう、観察してみよう、水やりしてみよう、食べてみよう。植栽の楽しみの基本を生み出すことができます。食べられない地域もあると思いますが、それでも育てて楽しんでみる。そうやって、春の季節に親しむことができます。「つなげる」ためには、まずは「やってみる」ことです。それは設定保育ではなく、「生活する保育」なのです。

こどものとも年中向き

『うちのほうが すごいんやで!』

〇テーマ「自慢話の想像力」

3歳児後半、4歳児になると毎年はじまる子どもたちの言葉の遊びがあります。それが自慢話とホラ話の物語創りです。「〇〇は、こんなんできるんやで!」「このまえな、アメリカにいったんやで!」「〇〇のポケモン持ってるで!」と事実無根の話を友だちと繰り返しています。それは嘘つきの始まりではなく、想像力と言葉のバランスがとれてきた証拠です。健全な発達を示してくれる「物語創り」という遊びです。この絵本は、園の子だからこそ、共通の話題になる「おむかえ」をもとにした子どもの物語創りの絵本です。4歳児の4月号に時期的にぴったりのテーマで、想像力の育ちと共感性を育ててくれる絵本です。

〇読み方

関西弁の絵本ですが、気にせず読んでください。イントネーションを気にする大人の読み方より、子どもたちが気にしているのは、楽しげか、面白げか、ということです。おすすめは、子どもたちの会話のように!クラスのちょっとおしゃべりな子に置き換えて読んでみるのも良いかもしれません。本当の自慢話のように、大げさに気持ちを込めて、親への親しみを込めて読んでください。

〇読んだ後のコミュニケーションに!

4月のクラスはじめに必要なのが、クラスみんなで楽しみあう体験です。そのために、ぜひ読んだ後に、ニヤニヤしながら、「みんなのママやパパはどうやって迎えに来るかな?」と荒唐無稽なおもしろい会話をしてみてください。「空を飛んでくるかな?」「回りながらくるかな?」と、子どもたちからのアイデアを引き出して、ホラ話をして、想像の世界を共に楽しみましょう。4歳児は最もファンタジー色が強い年齢です。だからこそ、4歳児の最初の絵本こそ、いきなり突飛な物語ではなく、このような子どもたちの身近なテーマからの話題を大切にしたいものです。

こどものとも

『いい はが はえる おまじない』

〇テーマ「成長のおまじない」

歯が生え替わるのは成長の証と実感。4歳児後半から5歳児の子どもたちにとっても、大きな出来事。「ぬけてきた」「ぐらぐらする」「見て!生えてきた!」と、必ず口の中を見せてくれます。だからこそ、年長の4月号として、共感性の強い物語です。年長になったことへの喜びと反面に、不安も子どもたちは持っています。だからこそ、「大きくなる」ことへの期待が大きくなるような物語が、子どもたちの内面に響きます。月齢差もある4月には、ファンタジー色も強い物語は、「みんな」で楽しむこともできます。これから、本格的な物語に入り込むのに、ちょうど良い柔らかさのある絵本です。

〇読み方

この絵本のポイントである「おまじない」はみんなで声をだして、おまじないの体操は一緒に身体を動かして。そのようなコミカルさも、この絵本の魅力です。ちなみに余談ですが、「おまじない」などを小さい頃に楽しんだ子たちは学力が高い傾向にあると言われています。私はそれは想像力の育ちを促していたと捉えています。

また、4月号としては物語が長いと思った場合は、その日、その日で区切りをつけて、「今日はここまでね。」と途中で終わって、「さて明日どうなるかな?」と期待をかけて終わるのも良いことです。長いお話になれていくためのスモールステップとしても、読みやすい絵本です。

〇読んだ後に

ぜひ、読んだ後に、子どもたちの話を聞いてあげましょう。歯がすでにぬけた子、ぐらぐらしている子、まだ抜けていない子、みんなで話し合いをすることで、この一年の共通の話題の土台作りは完成です。つまり、一年間のコミュニケーションの土台の完成です。保育のクラス創りには、共通、共有、共感の話題創りが必須です。子ども同士の、保育者とのコミュニケーションツールになる絵本です。

ちいさなかがくのとも

『ごはんだよ! だんごむし』

〇テーマ「春の生き物」

子どもたちを毎年魅了するダンゴムシ。そして、そこに大きく輝くいちご。子どもたちの興味と関心を表紙が強くひきつけます。春になると活発化するダンゴムシは、サイズ、形、感触、生態からも、子どもたちにとって扱いやすい春の人気者です。でも、飼育をしても、面白さが見えにくいのも事実でした。ただ捕まえて終わりのことが多かったです。そこに科学絵本があることで、子どもたちの世界は豊かになります。科学と遊びをつなげる名作の誕生です。

〇遊びに自然とつながる

ダンゴムシを捕まえだした子どもたちに聞いてみましょう「やってみる?」。子ども達は応えるでしょう「やるしかない!」と。自然とやりたがるでしょう。そこで起こる全てを楽しむと良いと思います。絵本通りに進まなくても、「やってみる!」ことが科学の始まりです。試してみることが、試行錯誤と思考力の始まりです。保護者の方と連携して、家から好きな食べ物を持ってきてもらうのもいいですね。絵本以外の食べ物が出たら最高です。

〇観察の細部のヒントに

ダンゴムシの模様、脱皮しかけのダンゴムシ、サツマイモは皮だけ残すなどの食べ方、好き嫌い、もしかすると赤ちゃんも生まれるかもしれない、など、飼育後の観察のヒントが山ほどあります。絵本のウンチもよく観ると食べ物の色に影響を受けています。子どもたちと絵本を通じて発見し続けることができる絵本です。写真でないのが、良いところ。写真は、どうしても撮影のために作為的になりますが、絵ならば作者の想いが込められます。「作為」と「想い」は、似て非なるものです。細やかな絵に込められた面白さを発見してみてはどうでしょうか。

かがくのとも

『くさぶえあそび』

〇テーマは、そのまま「草笛遊び」

科学絵本の良いところは、作者の「想いの集約」です。ネットの情報と違うところは、ネットの情報は大人は取捨選択できますが、幼い子向けに集約されたものではありません。科学絵本との違いは、科学絵本は小さい子にも分かりやすいように、情報がまとめられているところです。つまり、どこでも手に入る知識だけでなく、この作者の子どもたちとの体験や知恵が入っているのです。草笛遊びも、子どもたちを魅了する遊びですが、ただしちょっと難しい。だからこそ、試して行動できる5歳児向けの科学絵本には最適なテーマです。

〇読み方 & 工夫する点

全部いきなり読む必要なんてありません。その日、その日に、どこかのページを読んでも良いのです。今日は、「どの草笛遊びを見ようか~」と気軽に読んでください。そして、そのページの植物について話し合ってみてください。「どこかで観た?」「どこにあったかな?」と問いかけてみましょう。だからこそ必要な工夫が、散歩です。年長になるまでの散歩を思い出しても良いし、読む前に散歩をするのも良いでしょう。

〇遊び方

そのままです。やってみましょう。最初から「できる」必要はありません。いきなり「できる」は何も面白くありません。試行錯誤の果てに、本当の満足感と充実感があるのです。一回でも成功したら最高です。それ以外の100回の失敗も最高です。タンポポなどは、春の植物としても、大人も子どもも親しみやすいもの。花だけでなく茎も遊びに使い尽くしましょう。

おしまいに・・・

さて、全6誌を、自分なりに保育の視点も交えて紹介させていただきました。月刊絵本を選ぶ参考になれば幸いです。

大事なことは、子どもたちの生活の中に絵本があることです。

その絵本が家庭にも、園にも、同じものがあることで、子どもたちにとっての安心感と一体感につながります。

園は、子どもたちが子どもらしく、子ども時代を過ごせる最後の砦かもしれません。

決して、大人の人気取りのために保育があるのではなく、今こそ、私たちが、何を子どもたちのために選ぶのかに最善を尽くしていきたいところです。

全国の保育者、みんなで2024年度も楽しんで頑張っていきましょう。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。