はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。

今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。

月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。

この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。

それではどうぞ、お楽しみください。

こどものともひろば 運営係


 福音館書店の月刊絵本は、赤ちゃん絵本から科学絵本まで、その質の高さは言うまでもありません。その中でも、「夜」をテーマにした月刊絵本は群を抜いていると感じています。

 一度、この連載の中でも、『みかづきのよるに』(ちいさなかがくのとも2022年6月号)を取り上げさせてもらったことがあります。あの絵本も月明かりしかない暗闇の中を懐中電灯を頼りに父と子が歩いていきます。子どもたちには見えにくいと思われるほどの暗闇を描き、蛍に出会います。

 今年度の「かがくのとも」の11月号には『よる』という絵本が出ました。とても秀逸で子どもたちが普段寝ている時間の街中を描いています。

表紙:【表紙で夜の世界が始まります】
まだ、家の明かりもついています。犬の散歩をしている人もいます。「よる」という薄い黄色で描かれた題名も表紙の中で光る明かりの役割を持っています。

P1【男の子が寝ています】
この子は眠りにつく前に何を見ていたのでしょうか。カーテンが少し開いています。星を見ていたかもしれません。夜の音に耳を澄ましていたかもしれません。裏表紙に空を見上げるこの子がいます。朝の空と夜の空を比べているのかもしれません。

P2~P5【電気が消えていき、公園の薄明かりの中に誰もいません】
子どもたちが遊んだ跡があります。絵を見ているとブランコの音がキーキーと聞こえてきそうです。

P6~P7【自動販売機が光る道】
昼間よりも夜は長い道に見えます。猫もゆっくり脅かされることなく歩いています。

P8~P9【神社には何がいるでしょうか?何もいないでしょうか?】
言葉で問いかけられ、絵をよーく見ると、何かがいます。猫の寄り合い?フクロウ?右にいるのは猫?犬?それとも違う何かでしょうか。読んでいる子どもたちも気づきます。

P10~P11【暗がりの商店街にねずみが一匹】
 ねずみだけが動いている。電気は揺らめいているでしょうか。風でシャッターはガタガタと揺れているでしょうか。

P12~P13【信号がちょっと不気味に光ります】
車一台ない街中です。点滅のリズムは、子どもたちにどう映るでしょうか。

P14~P21【夜の間にも休むことがないのは?】
自分が寝ている間に働く人たちも存在しています。夜にも寝ていない人がいることを感じます。

P22~P23【遂に夜明けです】
電気が家につきはじめ、新しい一日が始まります。色と形が見えてきます。

P24~P25【始発電車が通ります】
音が戻ってきます。夜の静寂から人の生活の音へ。

P26~P28【そして、人々の一日が始まります】
ゴミ出し、出勤、散歩とそれぞれの昼間の生活が始まっていきます。

 子どもたちにとって身近な未知の世界である「夜」を切り取り、無音ではない静寂を描いた科学絵本です。皆さんも幼いころ体験したでしょうか、「夜」だけにきこえる音を。日中であれば、人の営みの音が聞こえてきて、静寂の音は聞こえません。ですが、この絵本からは、その音が聞こえてきます。人の足音が大きく聞こえます。鳥の鳴き声が聞こえます。木々が風に揺らぐ音も聞こえます。また、目に見える形も変わります。窓の向こうの見える木々が怪獣に見えることもあります。いつもの道が違った色に見えることもあります。


 福音館の月刊絵本で「夜」をテーマにした絵本は、夜を深く描きます。決して軽い夜になりません。読者である子どもたちに本当の夜の体験をしてほしいからでしょう。「黒」という単調ではなく、様々な暗闇と静寂を写し出しています。
 『おつきさまとさんぽ』(「ちいさなかがくのとも」2025年10月号)」、『よるのいけ』(「かがくのとも」2019年9月号 現在品切れ)、『かいちゅうでんとう』(「ちいさなかがくのとも」2014年11月号 現在ハードカバーで刊行中)など、すべての絵本が秀逸で、子どもたちに「夜」の世界をのぞかせてくれます。


 静寂と暗闇を写しきるからこそ、子どもたちに読むと生まれることがあります。それは「聞き入る」ということ、「見入る」ということです。まさに、その絵本の中に入り込むのです。


 暗闇を様々な色で映し出すからこそ見入ります。目をこらし、好奇心を持って、ドキドキしながら絵の細部まで見て、自分がまるでそこにいるかのように感じています。深く暗いシーンになると、ギュッと身を縮める姿に、その子どもたちの感覚を見せてもらいます。「こわい。」とつぶやく子もいます。暗いことは「怖いこと」なのは、まっとうな恐怖心です。それを感じ取れることは、脅しのような怖さではなく、人として持つべき根源的な本能に近いものです。そこまで「見入る」ことが子どもたちはできるのです。もちろん、夜こそ見える、月、星、街の明かりなども見て「美しい」と感じることもできます。怖い世界に、美しいものがある。人間の怖い物見たさは、こういった夜の世界の美しいものがひきだしてくれているのかもしれません。


 そして、夜の絵本の静寂を聞き入ります。虫の飛ぶ音、生き物の鳴き声、草を踏みしめる音、夜の小さなしゃべり声、電気の音、風がふきぬける音、遠くの車の走る音など、いろいろな音を絵本の中で聞いています。絵本の言葉に書かれていなくとも、「夜」の絵本を子どもたちと読んでいると、「なにか聞こえるよ?」と言う子がいます。子どもたちは、親が思っているよりも、夜の寝る前の音を聞いている証拠です。その経験から、絵本の音を聞き入るのです。


 それは、暗闇や静寂の持つ空気感を描ききる画家と作家のこだわりから生まれるものです。このレベルの「夜」の絵本は、単品買いの単行本ではあまり出てきません。月刊絵本という年間12冊の絵本との「出会い」が生まれるシステムだからこそ、子どもたちの生活にこのような絵本が入り込むことができるのです。

執筆者


松本崇史(まつもとたかし)


社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。

鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。

一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。

現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。

言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。