はじめに


いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。

福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。その間、社会情勢の変化に伴い、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しました。

しかし、「子ども」の本質は今も昔も変わらないでしょう。

それは、福音館書店の月刊絵本が今日でも多くの園の先生によって保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実にも表れています。

毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新作絵本」を世に出すことができたのだと実感しております。

今回、当社の月刊絵本を保育に取り入れてくださっている長野県長野市のころぽっくるこども園の園長、久保浩司先生から福音館書店の月刊絵本にまつわるエッセイをご寄稿いただきました。

全3回でお届けの予定です。

それではどうぞ、お楽しみください。

  1. 月刊絵本との出逢い~種まき~(←前回)
  2. 月刊絵本を取り入れてからの保育 ~種の生育期~(←この記事)
  3. 今の保育とこれからの月刊絵本に願うこと ~刈取り~(←2024年1月公開予定)

こどものともひろば 運営係

 前回、月刊絵本を全家庭で購入して頂くようになった経緯をお話しました。次は、どのようにその月刊絵本を園全体の柱として浸透させていったのかお話してみます。

 まず、私たち職員も改めて絵本について学ぶ必要があると感じ、月刊絵本が届くと月1回集まり絵本の読み聞かせをし、感想や子どもたちの様子を話し合う場を設けました。しかし、いざ月刊絵本を取り入れるのに賛同しても、職員によってその理解や取り組み方には差があり、職員の戸惑う姿も見受けられました。子どもたちごとに時間を使いたい職員もいて、なかなか積極的に意見を出し合うような雰囲気にはなりませんでした。

 そこで、東北信こどものとも社(なるに屋)さんの担当者高藤さんにもお時間を取って頂き、会に参加してもらいました。高藤さんもそんな雰囲気を感じたようで、「あまり活発でないようですね」と指摘を受けました。子どもたちの前で読む絵本は、子どもたちの表情を見て、間合い、言葉の強弱などを感じ、読み手も楽しめるものです。

 大人だけの空間で絵本を読み合うのは難しさがありました。職員間でも、経験や研修に対する取り組みの意識に相違があり、活発な意見を出し合う会に持っていくことがなかなかできませんでした。

 この戸惑う気持ちは職員間だけでなく、保護者の方々にもあると感じていました。そこで、保護者の方々に向けて、参観日に月刊絵本がどのような願いで作られているのかを福音館書店の方に来て頂き、話をしてもらいました。園発信だけでなく、絵本を編集している福音館書店の方から実際に話を聞くことで、月刊絵本だけでなく絵本についての理解や、子育ての中で大切にしていく事を聞く貴重な時間となりました。保護者からも、参加して月刊絵本を知る機会となり良かったと好評でした。

 現在、月刊絵本が園に届き、各家庭に配布し、名前を記入してもらい再び園に持ってきてもらっています。そして、各クラスで一日の保育活動の中で保育者が順番に子どもの絵本を借りて読んであげています。

 同じ絵本ですが、子どもたちは

「自分の絵本を友だちの前で読んでもらえる」

と得意気な顔で見つめています。そして、次の月の月刊絵本が届くと、その月に読んであげた絵本は家庭に持ち帰り、今度は家庭で読んでもらうようにしています。また、保育活動の一環として年長児は、毎年一人ずつ卒園アルバムを作成し、その一ページに今まで読んできた月刊絵本の中で一番好きな絵本のページの絵を描いています。幼少期に心の中で大切にしていることを形として残し、かけがえのない思い出になってもらえればとの願いからです。

 日々の保育の活動の他に、保護者の方も参加する毎月のお誕生日会では、保護者の方々にページを割り振るなど工夫してながら子どもたちの前で月刊絵本を読んでもらっています。これは、少しでも保護者の方に寄り添うのと、親子の様子から新たな発見や気付きに繋がる事になりました。

 そのような日々の積み重ねによって職員も保護者も、子どもたちにとって少しずつではありますが、絵本が生活の中で位置付いていったように感じました。
しかしながら、しっかりと絵本を理解し取り組む姿勢には、まだまだ、職員や保護者の中で温度差がありました。この問題を解決するすべもなく、しっくりとこない状態が続く日々でありました。

お話のあとがき

 4歳児の午睡前に絵本を読み、「おやすみなさい」のあいさつの後に他の子どもたちは自分の布団に入っていく中で、ふと気づくと私の足に寄り掛かってもうお昼寝を始めている子どもがいました。まるで夢の中で絵本の物語の続きを見ているかのようでした。

参考文献:「 絵本とは何か 」 松居 直氏 日本エディタースクール出版部
第三回「刈取り」へつづく

執筆者


久保浩司


社会福祉法人 はなぞの会 ころぽっくるこども園 園長
寄稿 『保育者の働き方改革』 中央法規 2021