はじめに
いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。
福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。
今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。
毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。
月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。
この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。
それではどうぞ、お楽しみください。
こどものともひろば 運営係
ちいさなかがくのとも 2020年11月号『かきのみだいへんしん』
月刊絵本には、毎月届くという特性上、季節を意識した内容の絵本が届きます。
それは保育現場にいるものにとっては、大いに助かり、また物語を楽しむ子どもたちにとっても、新たな喜びを得る機会にもなります。
既存の絵本よりも、その時の子どもたちにとって新たな季節の定番となるような名作も時に生まれてきます。
ただ、月刊絵本のすべての絵本が季節に合っていることには、私は反対です。
それは物語や絵本の幅を縮め、絵本作家の感性や表現を最大に活かすことにはならず、子どもたちにとっても、それは大きなマイナスだと感じていますし、多くの絵本に無理が生まれてくるでしょう。
さて、最近の月刊絵本で季節に合ったものを言うならば、『ほたるのひかりかた』(「かがくのとも」2022年6月号)、『うちのこまるをしりませんか』(「こどものとも」2022年9月号)など色々な絵本があります。
しかし、こういった季節の絵本を読む時に大事な保育者の視点があります。
それは、絵本に出てくるような体験を子どもたちがしているか?
地域的になかったとしても知らないことへの未知の好奇心を育んでいるかです。
たとえば、『うちのこまるをしりませんか』などは、お月見の絵本です。
年長の物語として、明るく、ユーモアもあり、お月見の絵本としては面白みのある絵と言葉で物語が進んでいきます。
しかし、もし子どもたちが、今までの生活の中で、お月見の体験をしており、さらにそれが楽しさにあふれたものでなければ、この絵本に対してのワクワク感や入り込み方や物語を味わうことで、保育者や友達と心を通わすことも薄いものになるでしょう。
つまり、季節感のある絵本を選ぶということは、それだけその体験をその子たちに保障し、さらに自由感や楽しさなどを体験することができる必要性があるのです。
季節感のある月刊絵本としては、最近では『かきのみ だいへんしん』(「ちいさなかがくのとも」2020年11月号)は秀逸でした。
【あらすじ】
おじいちゃんがくれた柿の実。かじってみたら、渋くて食べられないよ!でもこの柿の実も、干すと甘くておいしい柿の実に大変身するんだって。やってみよう! 毎日お外に干していたら、柿の実がだんだん小さくしわしわになってきた。もう渋くないのかな? 食べられるようになったかな? おそるおそるかじってみると……。
科学絵本でありながら、祖父と孫との交流から始まった生活感あるストーリーを主軸にしながら、秋の食物である干し柿ができていく過程を主人公である子どもの感情にのせながら巧みに描いています。
おおとりの森こども園でも、以前勤務していた日野の森こども園でも、毎年の繰り返しの中で渋柿の皮を子どもたちとむき、干して完成するのを待ちわびています。
食べられないほどの渋みのあった柿が干され、乾燥することで甘みが増し、お菓子のように食べられる。その不思議は、毎年のように子どもたちを魅了します。
干された柿が水分が抜け、しわしわになり変化していく様子は、子どもたちの好奇心をくすぶります。
このような体験がある中で、『かきのみだいへんしん』のような絵本を読むと何が起こるでしょうか!?
クラスの興味の焦点化、言葉の共通化と共に、子どもたちの人間関係が豊かになります。
言葉の共通化が生まれることで、干している実際の渋柿を見て「大変身してるなー」と言う子もいれば、「早く食べれるようにならんかなー」と見通しを持ち期待を持つ子もいます。
実際の環境と体験がある中に、季節にみあった絵本があることで、子どもたちのイメージの広がりと深まり、共通言語、無関心だった子への生活の知恵の伝達など、子どもたちが育っていく中で必要な体験が深まっていきます。
絵本がなくても体験はできます。
ただし、そこに絵本があることで、子どもたちの目に見えない内側には大きな豊かさが生まれます。
また、保育者が自分たちの生活の中にあることを価値づけてくれている、認めてくれている、共に楽しんでくれているというような、クラスへの所属感、幸福感、安心感、肯定感など、子どもたちに必要な内面の育ちをもたらせてくれます。
子どもの内面に入り込んでいくような季節の絵本は、決してイメージの矮小化を起こすのではなく、子どもたちにとって、他者とのつながりを広くし深めていく結果になります。
子どもたちが絵本を読むことの意味は何か?
その意味は子どもたちが持っていますが、保育者ができることは、子どもたちの喜びが生まれる最大限の努力として、実体験も絵本を読むことも保障してあげることではないでしょうか。
ちいさなかがくのとも 2020年11月号『かきのみ だいへんしん』
執筆者
松本崇史(まつもとたかし)
社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。
鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。
一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。
現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。
言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。