はじめに
いつも絵本を子どもたちに届けてくださり、ありがとうございます。
福音館書店は1956年の「こどものとも」創刊以来、65年以上に渡り月刊絵本を刊行し続けて参りました。
時代は変わり、人と人とのコミュニケーション方法が大きく変わりましたが、絵本の大切さは変わらないと思っています。
今日でも多くの園の先生によって当社の月刊絵本が保育の現場で活用され、子どもたちの育ちに寄り添い、園と家庭とを結んでいるという事実。
毎号毎号を手に取り、子どもたちと一緒に楽しんでくださる多くの先生方がいらっしゃるからこそ、数千にものぼる「新しいお話」を世に出すことができたのだと実感しております。
月刊絵本が保育にどう活かされ、子どもたちはどのように絵本の世界を楽しむのか。
この連載では、月刊絵本を保育に取り込み、子どもたちの変化を日々感じながら園長として保育に関わっている松本崇史先生に、月刊絵本の魅力を紹介いただきます。
それではどうぞ、お楽しみください。
こどものともひろば 運営係
「かがくのとも 」折り込み付録ポスターの魅力
今回はちょっと違った角度から月刊絵本の魅力に迫りたいと思います。
それは、「かがくのとも」に毎月はさまれている折り込み付録のポスターについてです。
福音館書店の月刊絵本には作者の言葉や編集者の言葉が入っている小冊子のような折り込み付録があります。
時折はっとさせられる内容や作者の感覚や視点みたいなものが見え、それは絵本を子どもたちと読む時の意識に違いをもたらせてくれることもあります。
月刊絵本そのものと同列の価値と思える貴重な資料です。
その折り込み付録の中で、「かがくのとも」は非常にユニークな付録になっていることを知っていましたか?
「かがくのとも」が科学絵本というジャンルだからこそできる、その月のテーマ(魚、動物、乗り物など)に合わせたユニークなポスターが作者の言葉の裏に描かれているのです。
ひとつひとつのポスターのクオリティーも高い上に、絵本を補足するような情報もありながら、より子どもたちの好奇心を引き出すような内容になっています。
最近では、『ちいさな えきの いちにち』(「かがくのとも」2022年8月号)の付録にはすごろくが付いていました。
電車に乗って旅をするというテーマのすごろくであり、あのホネホネさんシリーズの西村あつこさんが描いたワクワクするような内容になっています。
さて、当園の5歳児もそれを観た瞬間に「何それ?やりたい!」と興味を持ちました。
しかし、すごろくにはサイコロもコマもありません。
さて、どうするかなと思っていたら、次の日には、男の子たちがサイコロを自分たちでつくりはじめました。
ラキューという玩具で立方体をつくり、その上に紙を貼り付け、サイコロの目の数を調べ、1から6までを描き、自分たちのサイコロをつくりました。
そして、女の子たちが紙コップでコマをつくり、すごろくの中にいる登場人物を描き、オリジナルのコマもつくっていきました。
時間があれば、今も園の中で遊んでいます。
さて、ここで、そのすごろくで遊んだ一コマを紹介します。
YとHと園長ですごろくが始まりました。
YとHも意気揚々とスタートします。
さて、このすごろくには実は「呪い」があります。その名も「おべんとうの呪い」です。
ふりだしから6が出ると、なんと「おべんとうをわすれた ふりだしにもどる」があるのです。
Hはその呪いにかかった第1号です。
Yと園長が順調に進んでいく中、Hは1回目に6を出します。
次に1をだし、次のターンで5を出します。またふりだしに戻ります。
次に2を出し、次にターンで4をだし、またふりだしに戻ります。
次こそはと思い、サイコロをふると5をだし、次のターンで1を出し、また振り出しに戻ります。
次は1をだし、次は2をだし、その次は3をだし、またふりだしに戻ります。
そして、次に3をだし、また3をだし、ふりだしに戻ります。
ほぼすべてのパターンを体験し、Hは「ちょっとお茶のんでくる」とロッカーに向かっていきます。
そして、目には涙がたまっています。
お茶を飲んだと思ったら、「トイレいってくる」とトイレに行きます。
少し聞こえてくる「ぐすぐす」という声です。
Yが「なんで、ずっとここに来るんだろうね」と言います。
Yと園長がどんどん進んでいく中、涙をこらえて帰ってきたHがサイコロをふります。
5がでました。「おべんとうののろい」は目の前です。
緊張しているのが見えます。ついに自分のターンです。
Yも「がんばれH君」と応援しています。
そして、ついに、2を出したHは「おべんとうののろい」から解放されました。
そのときの笑顔は信じられないくらい清々しいものでした。
さて、ゲームを続ける中で、あがりのゴールになるとYが苦戦します。
数がぴったり合わないとゴールできないと自分たちで決めたのです。
すると、なんと、HがYを抜かしてゴールをしたのです。
抜かした時の笑顔は、人生で最高の瞬間のような表情をしていました。
涙を見せまいとしたHの気持ちが分かるのか、Yもどこか嬉しそうです。
この「おべんとうののろい」は、今でも数多くの人がかかっています。
「おべんとうののろい」という言葉も、子どもたちは使う中で、釈然としないまでも、その言葉があるおかげで、なんとなく楽しめているのです。
毎月、すごろくが付いてくるわけではありませんが、動物や魚のポスターも「はやくおよぐさかな」のようにテーマ自体が面白いものです。
このポスターだけで、400円以上の価値があるように思うくらいです。
何かこのポスターの有効活用の方法はないだろうかと模索しています。
綴じ方、保存の仕方、子どもたちが自由に手に取れるようにするには、何かよい実践をしている方がいれば教えていただきたいほどです。
「かがくのとも」の読み物だけではない楽しみ方をぜひ共有していければと思います。
執筆者
松本崇史(まつもとたかし)
社会福祉法人任天会 おおとりの森こども園 園長。
鳴門教育大学名誉教授の佐々木宏子先生に出会い、絵本・保育を学ぶ。自宅蔵書は絵本で約5000冊。
一時、徳島県で絵本屋を行い、現場の方々にお世話になる。その後、社会福祉法人任天会の日野の森こども園にて園長職につく。
現在は、おおとりの森こども園園長。今はとにかく日々、子どもと遊び、保育者と共に悩みながら保育をすることが楽しい。
言いたいことはひとつ。保育って素敵!絵本って素敵!現在、保育雑誌「げんき」にてコラム「保育ってステキ」を連載中。